職員の任命に関する一考〜発令の一部を委任することに関する議論から

以前、洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/)で、次の疑問に対して議論がなされていました。

通常、人事異動の際、任命権者から「○○課△△係長を命ずる。」との発令がなされると思いますが、任命権者は「○○課係長を命ずる。」との発令をし、○○課長が「△△係長を命ずる」と発令することは可能でしょうか?
ちなみに、組織規則では○○課に△△係、××係、◎◎係を置くと明記されています。

結論からいうと、適当ではないでしょう。
この議論を拝見して、私はその前提となる制度がどのようになっているかということを意識していないように感じられました。整理しておく必要があるのは、次の2点ではないかと思います。

  1. 職員の任命は、職に対して行うものであること。
  2. 任命権者が行う職の発令と、所属長が行う事務分担の決定とを区別する必要があること。

まず1についてですが、根拠は次の地方公務員法第17条第1項の規定になります。

地方公務員法(昭和25年法律第261号)
(任命の方法)
第17条  職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる。
2〜5 (略)

職員の任命は職に対して行うものであるということを言い換えると、制度上はあくまでも職に人が付いてくるのであって、人に職が付いてくるわけではないということになります。
分かりにくいので、具体例で説明します。主事の職にあるAという職員が、所属が変わらずに主任に昇任するということはよくあることだと思います。このような場合、地方公務員法第17条第1項は、職に欠員を生じた場合に、昇任等の方法で職員を任命するといっているので、制度上は、まずその所属の主事の職を廃止し、新たに主任の職を設けた上で、この主任の職にAを昇任により充てるという任命行為を行っていることになります。しかし、現実は、Aが昇任しているという事実だけしか見えないので、あたかも人に職が付いているように感じてしまいがちですし、運用においてもそのように思ってしまっているのではないでしょうか。
このように、制度上の建前と実態が乖離していることが、任命行為に関して疑問が生じてくる原因になっているのではないかと思います。
次に、2についてです。
通常、事務分担の決定は、課長等の所属長が行っています。しかし、それは原則としてスタッフ職に関してのみになります。つまり、スタッフ職は、職制上はその職にある職員が行う事務の難易等が決められているだけで、具体的な事務分担は、その職を踏まえて所属長が決めることになります*1
これに対し、係長のようなライン職については、当該係の事務を統括するという具体的な事務内容が職制上決められているので、その限りにおいて任命行為において具体的な事務分担まで決まってしまうことになります。
では、設問のような発令ができるかどうかですが、設問における係長は、△△係を統括している職として置いているのでしょうから、ライン職である「△△係長」を置いていると考えるのが素直です。
そうすると、もちろん任命権を課長なりに委任することは法制度上は可能なのですが、同一の権限を分割し、その一部のみ委任するということはできないと考えるべきでしょう。したがって、「○○課係長を命ずる」という発令は在り得ないことになり、設問のような発令は問題があることになります。
仮に、係長の行う具体的な職務を所属長の権限にしたいのであれば、次のような方法が考えられます。

  1. 係長は規則上の職ではあるがスタッフ職とし、係は組織規則上は規定しない。つまり、係長の職名はただ「係長」であり、「△△係長」という職名はあり得ないことになり、係は事実上そのように称しているだけのものとなる。
  2. 係及び係長とも規則には規定しない。つまり、係及び係長とも事実上そのように称しているだけのものとなる。したがって、係長は「△△係長」と称することもできるが、規則上の別の職を併せて持たせる必要がある。

なお、班や班長を置く自治体もあるでしょうが、これは、本来であれば上記の2のようにするべきだろうと思います。

*1:したがって、主事の業務を主任が引き継いだり、その逆のことはよく行われているかと思いますが、適当ではないことになります。これも制度上の建前と実態が乖離している一例でしょう。