法案の立案姿勢における日英の比較

法案の立案姿勢について、我が国とイギリスでは次のような違いがあるとのことである。

……より具体的な条文起草に当たっての心構えについても、日英間に相違があるようである。日本では、条文の立案に当たっては、法的安定性や法体系の整合性を重視するという見地から、「同じことは同じように」表現し、また、できる限り既存の現行法に倣うというのが通例であり、また立案の要諦であるとされている。 
これに対し、OPC*1では、既存の法律を見つけてきて新たな法律案を立案しようとするのは、「素人が犯す失敗」であるとすら考えられている。(憲法調査研究会「英国流「閣法」のつくり方」『時の法令NO.1865』(P63〜))

我が国において、前例を参照すべきとされている理由は、用語や表現が法律ごとに異なっていると、どうしてもその解釈が分かれてしまって定まらず、したがって法律の運用ができないということになるからであるといわれている(山本庸幸『実務立法演習』(P40)参照)。
しかし、大橋洋一『政策実施』(P18〜)では、我が国では法律の制定までに予想される省内での承認、他省間協議、閣議決定、与党折衝、業界団体との調整等を円滑にすませるために理論武装が必要不可欠であること、立法準備作業が各省単位でOJTによって伝承されているからであることをその理由として挙げている。
そして、こうした立案姿勢について同書(P19)では、実務の観点からみれば無難であるが、他方で、思い切った新規立法の可能性を妨げるといった副作用をもたらしてきたと評価している。
さらに私は、前例を参照して立案する場合には、往々にして似たような規定を見つけると、その規定の意味を十分に考慮することなく、安易に用いてしまうという弊害があると感じていた。
このような弊害は、イギリスのようなやり方であれば防ぐことができるであろう。ただし、イギリスのやり方は、判例法の国であるから許されるのかもしれない。*2

*1:OPC(Office of the Parliamentary Counsel)は、イギリスにおける政府の一機関であり、閣僚提出法案を起草することを主な職務とする(憲法調査研究会「英国流「閣法」のつくり方」『時の法令NO.1865』(P58)参照)。一般に「法制局」と訳されることが多いが、日本の法制局とは位置付け・職務が異なる(OPCは、各省からの指示書に基づいて自ら条文案を起草するのであり、また、法令解釈については権限を持っていない)(憲法調査研究会「法案提出は「運」次第」『時の法令NO.1863』(P57〜)参照)。

*2:ただし、イギリスにおいても、公法の分野においては、現代のいわゆる行政国家の下、国家の複雑かつ多様な行政活動を法的に支えるため、特定の政策分野については、ある程度体系的な議会制定法が定められるようになっているようである(憲法調査研究会「法案提出は「運」次第」『時の法令NO.1863』(P55)参照)。