泥棒に作らせた法律〜政治資金規正法の規定の例

公職選挙法政治資金規正法を政治家に作らせることは、泥棒に鍵を作らせるのと同じようなものだと言われることがある。その一例といえる政治資金規正法の規定について触れることにする。
政治資金規正法(以下「法」という。)による政治団体は、毎年、収支報告書を都道府県選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならないが(法第12条第1項)、提出をしなかった場合については、法第17条第2項の次のような規定がある。

政治団体が第12条第1項の規定による報告書をその提出期限までに提出しない場合において、当該政治団体が当該提出期限までに当該提出期限の属する年の前年において同項の規定により提出すべき報告書をも提出していないものであるときは、第8条の規定の適用については、当該政治団体は、当該提出期限を経過した日以後は、第6条第1項の規定による届出をしていないものとみなす。

ちなみに、法第6条第1項は、政治団体となった場合の届出の規定であり、この届出をしないと、法第8条の規定により、政治活動のために寄附を受け又は支出をすることができないこととされている。
法第17条第2項の規定の適用を受けた団体を、みなし解散をした団体ということがあるが、このような団体が、再び政治団体として活動しようとする場合には、次のような取扱いをすることとされている。

……「法第17条第2項」の適用を受け、実質上解散した団体と同様であるといっても、解散の手続きがされていない限り、法的には解散したとは認められません。 
そこで、まず、「法第17条第2項」の適用を受けた団体の解散の手続きが必要となります。この場合、必ず過去提出できなかった収支報告書及び解散の日現在で作成した収支報告書の提出が必要です。その手続きが完了した後に、新たに活動しようとする政治団体の設立の手続きをすることになります。(政治資金制度研究会『Q&A政治資金ハンドブック(第5次改訂版)』(P50))

確かに、法第17条第2項は、法第8条の規定の適用に限り法第6条第1項の届出をしていないものとみなしているだけである。ただし、みなし解散をした団体が再び政治活動をするために、みなし解散とされた以降の年の収支報告書も提出させるということは、法第17条第2項の規定ぶりからすると、しっくりこない運用である。
いずれにしろ、法の規定を守っていない政治団体の復活を簡単に許している扱いは、政治家に非常に甘いといえる。ちなみに、収支報告書を提出しないと、法第25条第1項第1号の規定により、5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処せられることになっているが、この罰則を受けたという話は聞かない。上記のような場合は、期限を過ぎても一応収支報告書を提出したからよいということだろうか(同号の規定は「第12条……の規定に違反して報告書又はこれに併せて提出すべき書面の提出をしなかった者」とされている)。
政治資金の問題というと、民主党小沢一郎元幹事長の資金管理団体陸山会」の土地購入をめぐる事件で、この10月4日に、東京第5検察審査会が、政治資金規正法違反容疑について起訴すべきと判断したことから、小沢氏は弁護士により強制起訴されることになっているという問題がある。この問題については、小沢氏は議員辞職をすべきという意見もある中で、あるテレビ番組で、「小沢氏が法律違反をしているのか結論が出ていない段階で、小沢氏の責任をいろいろ言うべきではない」といったような趣旨のことを述べていた民主党の代議士がいた。
小沢氏の行為が違法かどうかについて説明できるほどの知識は、私にはない。
ただ、小沢氏は、他の政治家に比べて法律を遵守している政治家だと言われている。そして、検察が結果的に起訴しなかったということからすると、小沢氏が政治資金規正法違反に問われる可能性は小さいのではないかという感じはしている。
しかし、小沢氏に対する批判は、法律に違反しているからというよりも、一般常識からしておかしいのではないかというものが大多数であろう。そして、本来であれば、その常識を踏まえて作らなければいけない法律を自分達の好きなように作っておいて、法律違反でなければ責任問題は生じないという理屈は、私にはよく分からない。