条例事項を規則事項とすることについて

法律事項であっても、技術的・専門的事項や経済事情の変動に応じて機動的・弾力的に対処しなければならない事項、地域的特性を十分に加味する必要がある事項などは、法律上適当なしぼりを加えて上で、命令に委任することは一般に認められている(田島信威『最新法令の読解法(4訂版)』(P11)参照)。この考え方は、条例事項を規則等の下位例規に委任する場合にも当てはまるだろう。
ところで、規則等に委任することができる事項であっても、最初に条例事項にしてしまった場合には、それを規則事項とすることには、抵抗を感じるのではないだろうか。しかし、法令の場合、平成22年法律第25号で、次のように中小企業倒産防止共済法第9条第2項に定められていた共済金の貸付限度額を政令事項にしている。
ちなみに、改正前後の同項の規定は、次のとおりである。

<改正前の中小企業倒産防止共済法第9条第2項>
前項の共済金の貸付額は、貸付けの請求があつた日における納付された掛金の合計額から次の各号に掲げる額の合計額を控除した額の10倍に相当する額と倒産に係る取引の相手方たる事業者に対する売掛金債権その他の経済産業省令で定める債権(以下「売掛金債権等」という。)のうち回収が困難となつたものの額(共済契約者とその取引の相手方たる事業者との取引関係が経済産業省令で定める要件に該当する場合にあつては、その額と共済契約者の取引関係の変化による影響を緩和するため緊急に必要な資金の額として経済産業省令で定めるところにより算定した額との合計額。以下同じ。)とのいずれか少ない額の範囲内において、共済契約者が請求した額とする。ただし、当該貸付額と請求の日において既に貸付けを受け、又は受けることとなつた共済金の額から既に償還した共済金の額を控除した額との合計額が3,200万円を超えてはならない。(各号略)
<改正後の中小企業倒産防止共済法第9条第2項>
前項の共済金の貸付額は、貸付けの請求があつた日における納付された掛金の合計額から次に掲げる額の合計額を控除した額の10倍に相当する額と倒産に係る取引の相手方たる事業者に対する売掛金債権その他の経済産業省令で定める債権(以下「売掛金債権等」という。)のうち回収が困難となつたものの額(共済契約者とその取引の相手方たる事業者との取引関係が経済産業省令で定める要件に該当する場合にあつては、その額と共済契約者の取引関係の変化による影響を緩和するため緊急に必要な資金の額として経済産業省令で定めるところにより算定した額との合計額。以下同じ。)とのいずれか少ない額の範囲内において、共済契約者が請求した額とする。ただし、当該貸付額と請求の日において既に貸付けを受け、又は受けることとなつた共済金の額から既に償還した共済金の額を控除した額との合計額が政令で定める額を超えてはならない。(各号略)

政令事項とした理由は、次のとおりである。

近年、サブプライムローン問題やリーマンショックなどに端を発した急激な景気悪化により、倒産件数の増加とともに負債総額が高額な大型倒産が増加したことなどにより、取引先の倒産によって中小企業の回収困難となる売掛金債権等の額が高額化し、3,200万円の貸付限度額では十分でない共済契約者の割合が増加している。 こうした急激な景気悪化に対応して、迅速に引き上げる改正ができるように、貸付限度額を法定事項から政令事項に改正することとした。(中小企業庁事業環境部企画課 大星光弘「中小企業倒産防止共済の充実〜中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律」『時の法令(NO.1866)』(P35))

条例の場合には、長の専決処分が認められているため(地方自治法第179条第1項)、必ずしも規則事項としなくても緊急の場合の対応は可能ではあるが、それに頼るよりは、必要があれば、条例事項を規則事項とすることを考えた方がよいのではないだろうか。
なお、上記の中小企業倒産防止共済法第9条の改正において、同条第3項として次の規定が追加されている。

前項ただし書の政令で定める額は、取引先企業の倒産の影響を受けて倒産する等の事態をその貸付けを受けることにより中小企業者の大部分が避けることができると見込まれる資金の額等を勘案して定めるものとする。

この規定が追加された理由は、次のとおりである。

政令事項化によって、国会の議決を経ることなく、国会休会中であっても政府の決定によって迅速に定められることとなるが、今後ともこれまでと同様の考え方に基づいて貸付限度額が定められるよう配慮することが必要となる。 すなわち、これまで、貸付限度額の設定・引上げについては、本制度の収支状況への影響とともに大部分の中小企業者の取引先が倒産した際の資金ニーズに対応することができることを前提に設定されてきたところである。法律上、本制度の収支状況への影響について検討することについては法第23条において既に明記されているが、後者の大部分の中小企業者の資金ニーズに対応することについては法律上明記されていなかった。このため、今般の改正において新たに次の規定を設けて、政令事項になった後においても引き続きこれまでと同様の考え方に基づいて貸付限度額が定められるように、法律に明記することとした。(前掲書(P35〜))。

条例事項を規則事項にすることがあれば、このような考え方は、参考にすべきだろう。