飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について〜読売新聞の記事から

kei-zuさん(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20101214)経由で、読売新聞2010年12月12日配信の記事から

飲酒運転処分 悩む自治
免職で敗訴 全国で相次ぐ 
酒気帯び運転を理由とする懲戒免職は重すぎるとして、新潟市職員が処分取り消しを求めた訴訟は、市が敗訴し、停職処分に切り替えられた。同様の司法判断が下るケースは全国でも相次いでいる。飲酒運転撲滅の機運の高まりをにらみ、厳しい姿勢で臨んできた自治体側は、困惑している。
新潟市が敗訴、上告断念 
新潟市職員の男性(61)は市立小学校に勤務していた2008年8月、飲酒から8時間後に乗用車を運転。交差点で一時停止せず物損事故を起こした。市は男性を懲戒免職としたが、1、2審とも判決で「社会通念上、(処分は)著しく妥当性を欠いて過酷」と指摘。控訴棄却を受け、市は今年10月、「自治体敗訴の判決が続き、上告しても負ける可能性が高い」と上告を断念、男性の処分を停職6か月に改めた。 
06年、福岡市職員の飲酒運転で幼児3人が死亡する事故が起きたのを機に、飲酒運転厳罰化が叫ばれ、道路交通法も改正された。 
これを受け、新潟市は、飲酒運転をした職員の処分指針をより重い内容に改め、酒酔い運転は一律「免職」とし、人身事故を伴わない酒気帯び運転は「停職・減給」から「免職・停職」へ引き上げていた。
■見極めに難しさも 
判決では、男性のアルコール検知量が呼気1リットル中0.15ミリ・グラムと「酒気帯び運転の下限量」だったことが、処分取り消しを命じた理由の一つに挙げられた。だが、市幹部らは、「免職とした当時の判断は、妥当だと思う。裁量権は市に広範囲に付与されているはず。飲酒運転は厳罰に処分するという社会通念が変わったのか」と、首をかしげる。 
市は今後、(1)飲酒後の経過時間(2)アルコールの検知量(3)被害者の負傷程度――など、判決で指摘された点を参考に懲戒処分を判断することにしたが、見極めは難しく、「司法が一律の処分基準でも示してくれればよいが……」と頭を悩ませている。

上記だけでは事実関係がはっきりしない部分もあるが、人身事故を伴わない酒気帯び運転の処分基準が「免職・停職」であったのであれば、飲酒から8時間後の運転であったので、停職でもよかったのではないかとは思う。ただ、物損事故を起こしている事例なので、市幹部は「免職とした当時の判断は、妥当だと思う」としているが、そのあたりを重視してのことなのだろうか。
なお、「司法が一律の処分基準でも示してくれればよいが……」との発言があるが、懲戒処分のあり方からするといかがかと思うが、そのように感じさせる裁判所の判断もどうかと思う。
上記新聞記事は、続けて次のように記載している。

■懲戒権行使に一石 
酒気帯び運転で物損事故を起こし懲戒免職とされた神戸市消防局の男性消防士が起こした訴訟では、最高裁が1月、市側の上告を退けた。
読売新聞の取材では、この1年間で最高裁まで争われた飲酒運転を巡る同種の裁判では、大阪市佐賀県など5自治体で敗訴が確定している。
東京大学大学院法学政治学研究科の金井利之教授(行政学)は、「飲酒運転の被害防止は社会の強い要請だが、人事権者・管理監督者としての責任を取らず、第三者であるかのような観点で懲戒権を行使した安易な責任転嫁の姿勢に、司法が反省を迫っている」と指摘している。
自治体は判例や事情考慮、基準がなく困惑も 
自治体敗訴の判例が続いていることを、県内の主な市や県は、どう受け止めているのか。 
昨年11月、酒気帯び運転をして摘発された男性係長(当時)を停職6か月とした上越市。市の飲酒運転に関する懲戒処分指針では、酒酔い、酒気帯び運転は「免職」とされている。 
しかし、上越市は処分を検討するにあたり、酒気帯び運転した京都市職員に対する懲戒免職処分の取り消しを市に命じた、同6月の京都地裁判決を考慮。免職ではなく、停職とした。上越市は「指針を緩めることに抵抗感はあるが、判例や社会の流れは無視できない」としており、近年の司法判断が自治体の人事権にも影響を与えていることをうかがわせる。 
一方、飲酒運転は事故の有無にかかわらず原則として免職とする県は、「飲酒運転には厳しい姿勢で臨むが、処分は様々な事情を考慮した上で行う」との考え。 
酒酔い運転は「免職」、酒気帯び運転「免職・停職」と定める長岡市も、「事案ごとに対応する」としている。ただ、「これぐらいなら適当という基準がないと判断しづらい」と、本音をのぞかせた。

この中で、金井教授が「人事権者・管理監督者としての責任を取らず、第三者であるかのような観点で懲戒権を行使した安易な責任転嫁の姿勢に、司法が反省を迫っている」とコメントをされているが、どのような事実に基づいて発言されているか、私にはよく分からない。
管理監督者等の責任の軽重としては、まず懲戒処分を受けた者の行為が、公務上のものだったかどうかということが重視されるのではないだろうか。そうすると、今は公務において飲酒を伴うことはほとんど考えられないことからすると、管理監督者等自身の責任は相対的に低くなる。
そして、飲酒運転というのは、誰が見ても悪いことであることは明白なので、どこまでやれば管理監督者等の責任は免れるのかということが明確にならないと、安易な責任転嫁といわれても困ってしまうのではないか。
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