防災ヘリコプターの運行費用を利用者に求めることの可否(その2)

2010年10月15日付け記事「防災ヘリコプターの運行費用を利用者に求めることの可否」で取り上げた、山岳救助で防災ヘリコプターが出動した場合に遭難者に費用を請求できるようにする条例を、埼玉県が議員提出で成立させようとしていたことについては、結局、費用請求の規定は盛り込まず、附則で「県は、航空機の適正な運航の確保及び山岳遭難等の発生の抑止の観点から、山岳遭難に係る緊急運航に要した費用の遭難者等による負担その他必要な方策について早急に対応するものとする」という規定を設けるにとどまったとのことである。
その辺りの経過については、WEDGE Infinity 2010年12月14日配信記事が詳しいが、2010年10月15日付け記事で疑問を呈しておいた法的根拠については、民法の不当利得を考えていたようである。それに関してなされた議論について、WEDGE Infinityの上記記事を引用する。

今回、埼玉県の条例案作成の際にポイントとなったのは、悪天候などにより明らかに運航が困難と判断される場合を除き、原則的に救助要請にはすべて応じる、という点である。救助要請の時点で出動の是非を問えば、消防法に抵触する恐れもある上、後々怪我の状態が悪化するということも大いに考えられる。ただし、救助後に、それがあまりに安易な要請であると判断された場合には、救助者の救助に要した費用として、燃料費や整備費などを請求できると定めるつもりだった。 
実際にどの程度の額を想定していたかというと、「10万円〜30万円程度」(前出*1の田村議員)。一律案も出たのだが、その場合は航空法による航空運送事業の許可が必要な民間ヘリの定期運航と見なされる可能性がある。これには煩雑な事務手続きが必要とされたり、人員の確保などの細かな規定があったりと、現実的に運営が困難となるため、実費という結論に落ち着いた。「お金の徴収が目的ではなく、あくまでも請求権を担保することによって、不適切な防災ヘリの出動を抑制し、遭難事故が減少すれば」と田村氏はその意図を語る。
しかしこの条例案は、再び議会の提出前段階で、執行部の反対にあった。「請求可能とする法的根拠が乏しい」という声に対して、田村氏は、民法703条「不当利得の返還義務」を挙げていたが、「人命と財産を一緒に考えることはなじまないのでは」という執行部を説得できず、有料化は条例案本則には盛り込まれなかった。民法に詳しい元・広島高等裁判所長官で弁護士の相良朋紀氏の見解では、「確かに、防災ヘリに関しては(民法)703条は馴染まないが、702条の『管理者による費用の償還請求』ならば、『管理者』の定義は分かれるところかもしれないが、可能性がないわけではない」と、費用請求において法的な根拠を求めることができる可能性を示唆した。

繰り返しになるが、2010年10月15日付け記事でも記載したように、防災ヘリコプターの運行は、住民の救助という自治体の本来的な業務であるとすると、第703条であろうが第702条であろうが私法である民法の規定を根拠とするのは適当とは思えない。あくまでも、地方自治法に規定されている種類の収入とすることを考えるべきではないだろうか。

*1:埼玉県自民党議員の田村琢実氏