外国人等に住民投票条例に基づく投票権を付与することについて

22市町に外国人住民投票権 自治体の無警戒さ浮き彫りに
市政の重要事項の是非を市民や定住外国人に直接問うと定めた「市民投票条例」の制定を目指す奈良県生駒(いこま)市のほかに、事実上の外国人地方参政権容認につながる条例を制定している自治体が少なくとも22あることが8日、産経新聞の調べで分かった。条例をめぐり、外国勢力の動きが見え隠れするケースもあった。国家意識が希薄になる中で、国籍条項を顧みず、なし崩しに走る自治体の無警戒ぶりが浮かぶ。 
一定の要件を満たせば原則議会の議決なしで住民投票を実施できるとした「常設型住民投票条例」は平成14年9月、愛知県高浜市で初めて制定。投票資格者の年齢を「18歳以上」と定め、永住外国人にも付与したことで話題となった。 
条例制定はその後広がったが、当初は投票資格などに一定の条件を課すのが一般的だった。ところが、こうした条件はどんどん緩和され、在日米軍基地を抱える神奈川県大和市では制限がないままに16歳以上の日本人と永住・定住外国人による住民投票を容認する条例が制定されている。
住民投票条例ではなく、「自治基本条例」で住民投票を定め、規則で永住外国人の投票を容認した東京都三鷹市のようなケースもある。自治基本条例で「市内に住所を有する市民による市民投票」と定めたうえで、「市民とは市内に在住、在勤、在学する者、または公益を目的として市内で活動する者」と「市民」の定義を大幅に広げた埼玉県川口市や、「市長は、住民投票で得た結果を尊重しなければなりません」と住民投票に拘束力があるかのように定めた東京都多摩市のような条例もあった。 
平成の大合併」と呼ばれた市町村合併の際、永住外国人に「住民投票権」を付与して合併の是非を問うた自治体も多かった。在日本大韓民国民団(民団)による地方議会への働きかけで、永住外国人投票権を付与するよう条例を改正した埼玉県岩槻市(現さいたま市、条例は合併で失効)や三重県紀伊長島町(現紀北町、同)の例が民団の機関紙「民団新聞」で明らかにされている。MSN産経ニュース 2011年1月8日配信

産経新聞は、住民投票条例で投票資格者に外国人を含めることをかなり問題視しているようである。実際に問題となるケースはあるのだろうが、現行の法制度では条例に基づく住民投票の結果に法的拘束力を認めることができない以上、ことさらこだわってみても仕方がないのではないだろうか。
事実、自民党浜田和幸参院議員の質問主意書に対し、政府は、2月1日付けで次の答弁を行っている。

お尋ねの「事実上の拘束力を有する住民投票」の意味するところが必ずしも明らかではないが、条例に御指摘の「住民投票の結果を尊重する」旨の規定が置かれている場合を含め、その結果により、地方自治法(昭和22年法律第67号)その他の法律に基づき地方公共団体の議会又は執行機関に付与された権限が制限されることがない住民投票については、当該地方公共団体の判断により、条例で、住民投票投票権を、「日本国籍を有しない永住者等(出入国管理及び難民認定法別表第2に該当する者)」又は「日本国籍を有しない永住者等(出入国管理及び難民認定法別表第2に該当する者)に限らず、同法別表第1に該当する日本国籍を有しない者」に付与したとしても、そのこと自体が御指摘の「憲法上の国民主権の原理」と矛盾するものとは考えていない。

外国人等を投票資格者とすることについて、私が気になるのは、住民投票に付する事項との関係である。
例えば、投票資格者を18歳以上の日本人及び永住・定住外国人としている某自治体の常設型の住民投票条例には、住民投票に付する事項について次の規定を置いている。

住民投票に付することができる重要事項)
第2条 住民投票に付することができる市政運営上の重要事項(以下「重要事項」という。)は、現在又は将来の市民の福祉に重大な影響を及ぼし、又は及ぼすおそれのあるもの(次に掲げるものを除く。)とする。
(1) 市の機関の権限に属しない事項
(2) 法令の規定に基づき住民投票を行うことができる事項
(3) 専ら特定の市民又は地域に関係する事項
(4) 市の組織、人事又は財務の事務に関する事項
(5) 前各号に定めるもののほか、住民投票に付することが適当でないと明らかに認められる事項

この条例では、法令の規定に基づき住民投票を行うことができる事項は、住民投票には付さないこととしている(第2条第2号)。例えば、議会の解散請求があった場合の投票(地方自治法第76条第3項)などをこのような事項と想定しているのだと思われるが、この場合の投票資格者は20歳以上の日本人であることから、条例に基づく住民投票における投票資格者との間に違いが生じることになる。
さらに、住民投票ではないが、条例の制定・改廃請求に係る署名者も20歳以上の日本人となっている。常設型の住民投票条例の場合、投票資格者から住民投票を行うことの請求ができることとしているものが多いと思われるが*1、条例の制定・改廃の対象となる事項は、請求の仕方によっては条例に基づく住民投票事項にもなり得るため、この点でもバランスを欠く。
これが常設型でなければ、住民投票に付する案件を考慮して投票資格者を決めたといえばいいのだが、常設型の場合は、法令の規定に基づき住民投票を行うことができる場合のことを少しでも考慮して制度設計をするのであれば、現行の法制度では、住民参政権的なものは原則として投票資格者は20歳以上の日本人としていることからすると、その投票資格者は、20歳以上の日本人とせざるを得ないのではないだろうか。
(参考)
外国人を投票資格者とする場合の実務的な問題点として、反則法制「住民投票条例(後編)」参照
(過去に記載した関連記事)
2010年2月5日付け記事「住民投票法案

*1:上記の条例も、第5条第1項で「投票資格者は、規則で定めるところにより、前条第1項各号に掲げる者の総数の10分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、市長に対し、重要事項について住民投票を実施することを請求することができる」としている。