行政代執行を行うための立法技術に関するメモ

1 見解
条例で禁止規定を定めた場合は、通常罰則等によりその履行を担保するが、さらに、履行されない場合に行政代執行を行うことができるようにしておくのであれば、その違反状態を是正することを命ずる行政処分の規定を設け、不作為義務を代替的作為義務に転換する規定を置くことが必要である。
2 行政代執行法(第2条)の規定

法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

3 文献(広岡隆『行政代執行法(新版)』(P66〜))

法令が、あることについて、絶対的禁止を定め、あるいは、「……しようとするものは、行政庁の許可を受けなければならない」というような形で、許可を留保した相対的禁止を定めている場合において、国民が、禁止せられたことを行ない、または、許可を要する行為を許可なしで行なったときは、不作為義務の違反が存在する。このような不作為義務の違反について、法令が罰則を定めることはしばしばあるが、不作為義務の違反を理由として、ただちに、その違反から生じた有形的結果を是正するための代執行をなしうるものではない。不作為義務の違反から生じた結果を是正するため、違反物件の除却・移転・改修などの代替的作為義務が課せられ、その代替的作為義務の不履行の場合にはじめて代執行が考えられうるのである。法治主義の原理を厳格に理解する以上、右のような不作為義務から、その違反によって生じた結果を是正する作為義務を当然に引き出しうるものではなく、また、右のような禁止規定から、違反の結果の是正を命ずる行政処分の権限を当然に引き出しうるものではない。そこで、法令は、あることについての禁止を定めると同時に、それに違反した者に対して違反によって生じた有形的結果を是正することを命ずる行政処分の権限を認め、不作為義務を代替的作為義務に転換しうる法的根拠を定めるのが通例である。

4 不作為義務を代替的作為義務に転換しうる規定の例

河川法(河川管理者の監督処分)
第75条 河川管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、この法律若しくはこの法律に基づく政令若しくは都道府県の条例の規定によつて与えた許可若しくは承認を取り消し、変更し、その効力を停止し、その条件を変更し、若しくは新たに条件を付し、又は工事その他の行為の中止、工作物の改築若しくは除却(第24条の規定に違反する係留施設に係留されている船舶の除却を含む。)、工事その他の行為若しくは工作物により生じた若しくは生ずべき損害を除去し、若しくは予防するために必要な施設の設置その他の措置をとること若しくは河川を原状に回復することを命ずることができる。
(1) この法律若しくはこの法律に基づく政令若しくは都道府県の条例の規定若しくはこれらの規定に基づく処分に違反した者、その者の一般承継人若しくはその者から当該違反に係る工作物(除却を命じた船舶を含む。以下この条において同じ。)若しくは土地を譲り受けた者又は当該違反した者から賃貸借その他により当該違反に係る工作物若しくは土地を使用する権利を取得した者
(2) この法律又はこの法律に基づく政令若しくは都道府県の条例の規定による許可又は承認に付した条件に違反している者
(3) 詐欺その他不正な手段により、この法律又はこの法律に基づく政令若しくは都道府県の条例の規定による許可又は承認を受けた者
2〜10 (略)   
屋外広告物法
(違反に対する措置)
第7条 都道府県知事は、条例で定めるところにより、第3条から第5条までの規定に基づく条例に違反した広告物を表示し、若しくは当該条例に違反した掲出物件を設置し、又はこれらを管理する者に対し、これらの表示若しくは設置の停止を命じ、又は相当の期限を定め、これらの除却その他良好な景観を形成し、若しくは風致を維持し、又は公衆に対する危害を防止するために必要な措置を命ずることができる。
2〜4 (略)

5 その他
法令に不作為義務を代替的作為義務に転換しうる規定がないにもかかわらず、行政代執行を認めた事例もあるが(福岡高裁宮崎支部昭和40.5.14)、広岡・前掲書(P69)は、「解釈論としては、……罰則だけしか設けていない同法は、その罰則だけで法律の実効性を担保しようとしているものと解さなければならないであろう」として、この判例に対して疑問を呈している。