条例で懲戒処分の基準を定めることの可否

MSN産経ニュース2011年5月17日付け配信記事

橋下知事、国歌不起立の処分基準も条例化 ルール守らぬ教職員「府にいらぬ」
大阪府橋下徹知事は17日、5月府議会で提出される入学式や卒業式での国歌斉唱時に起立することを府内の公立学校の教職員に義務付ける条例案に関連し、「知事は処分権者ではないが、違反教職員の処分基準を条例化したい」と述べ、義務化条例とは別に処分基準を明文化した条例案を9月府議会に提出する方針を示した。府庁で取材に答えた。 
起立を義務化する条例案は、橋下知事が代表を務める地域政党大阪維新の会」の府議団が提出する方針だが、罰則規定は盛り込まれない見通し。 
橋下知事は「一定のルールを作って(処分権者である教育委員会の)裁量の幅をきっちりコントロールする」と語り、専門家の意見も聞きながら条例化を目指す考えを明らかにした。 
また、処分条例が整備されても教育委員会が処分しない場合は「処分権者が処分される」との見解を示し、「ルールを守らない教職員は府にはいらない」とも語った。

5月26日付けの新聞各紙には、大阪維新の会が「君が代起立条例案」を同月25日に大阪府議会へ提出した旨掲載されていたが、今回取り上げるのは、橋下知事が制定を目指している処分の基準を定める条例についてである。
この「処分」は、懲戒処分を想定していると思われるが、懲戒処分の基準を定める条例は、違法であろう。そのように考える理由は、次のとおりである。
地方公務員法は、「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、懲戒処分を受けることがない」(第27条第3項)と定め、同法第29条第1項で、その事由として次の3つの場合を定めている。

(1) この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
(2) 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
(3) 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

教職員が国歌斉唱時に起立しないことは、「君が代起立条例」が成立したとしても、当該条例が(1)の「条例」に当たるものではないが、(2)の職務上の義務違反と考え得ることはできるだろう。
しかし、職務上の義務違反があったとしても、一般的に「職員の義務違反に対して懲戒処分をするかどうか、および懲戒処分をする場合にいずれの処分を行うかは、任命権者が裁量権の範囲を逸脱した場合を除き、任命権者が裁量権によって決定すべきものとされている(最高裁昭52.12.20判決 判例時報874号3頁)」(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P585))。
そうすると、懲戒処分の基準についても、当然処分権者(任命権者)が定めるべきもので、条例で定めることはできないと考えるべきであることになる。
自治体における条例は、国における法律とパラレルに捉え、自治体が定めることができる事項は条例で何でも定めることができると考える向きもあるが、それは誤りである。