統一地方選挙の期日の延期と憲法第95条

3か月程前になるが、東日本大震災の影響により、統一地方選挙の期日においては選挙を適正に行うことが困難な地域において、その期日の延期等を行うため、「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」が3月18日に成立した。
この法案は、国会の審理における議事録を見ると、特に問題なくスムーズに成立したようである。しかし、平成7年の阪神・淡路大震災の際に、今回と同様「阪神・淡路大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」により、一部の地域において統一地方選挙の期日の延期等が行われているが、その際の国会審議においては、この法案が憲法第95条の「一の地方公共団体のみに適用される特別法」に当たらないか質疑がなされている。
それは、次のとおりである。

<第132回国会参議院選挙制度に関する特別委員会(平成7年3月8日)>
山下栄一 ……ただいま大臣の方から、阪神・淡路大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案、これの趣旨説明があったわけでございます。私も今回の大震災の被害の甚大さを見まして、昨年の臨時国会で制定されました統一地方選特例法の中に、兵庫県の県会議員の選挙、その他特定市の市会議員の選挙、長の選挙も入っておりまして、とてもじゃないけれども今の状態では統一地方選挙のときには選挙ができないという状況はわかりますので、何らかの処置が必要であるということでもう法案につきましては賛成であるわけでございますけれども、何点かやはり心配な点がございますので確認させていただきたいというふうに思います。  
まず、冒頭確認しておきたいことは、今回の特例法案が特定地域に適用されるということで、憲法95条の地方自治特別法の規定との兼ね合いでそれに触れないか、そういうことをまず確認しておきたいと思うわけでございます。  
と申しますのは、憲法95条によりますと、地方自治特別法を制定するときには住民の投票が必要になってくるというわけでございますけれども、その場合に、国会で最後に議決した議院の議長がその法律を添えてその旨を内閣総理大臣に通知して、その後、関係地方公共団体の長が選挙管理委員会にそのための住民投票を行わせることになっておる、こういうことでございます。もし今回の法案が地方自治特別法というものに万が一なる場合には、参議院が後議の議院となるということでこうした手続を踏むことが必要になるわけでございます。  
そういう観点から、この法案の憲法適合性を審査した内閣法制局に対しまして確認しておきたいと思うわけでございます。  
まず、今回の法案のポイントは、選挙の期日を延ばすということ、それからもう一つは、議員と長の任期を4年ではなくてその4年の任期を引き延ばす、そういう2点が中心になっておるわけでございます。こういう選挙期日を延ばしたり、またこの任期を延長するということにつきましては、これは地方自治の組織と運営の根幹にかかわることでございますので、まさに95条に言う特別法に該当するものではないか、こういうことでございまして、法制局の見解をお伺いしたい。  
もう一つは、95条に言う一つの地方公共団体に適用される特別法ということで、一つの地方公共団体に当たるのではないか。すなわち、今回の法案にも書いてございますように、自治大臣が指定する特定市になるわけでございますけれども、その特定の市は災害救助法の適用地域ということになっております。そうしますと、おのずとどこの市に今回の法律が該当するかというようなことはもう明らかになるわけでございまして、そういう意味でも、この憲法95条に言う一つの地方公共団体に適用される法律に当たるのではないか、こういう懸念がございますので、以上2点につきまして法制局の御見解をお伺いしたいと思います。
○政府委員(大出峻郎君)(内閣法制局長官 この法案とそれから憲法第95条との関係についての御質問でございましたが、憲法第95条は、地方自治を尊重する立場から、すなわち地方公共団体自治権ないし自主性を保障する立場から、特定の地方公共団体に係る法律の制定につきましては、特にその地方公共団体の住民の投票を必要とすることとしたものであります。  
この95条に言う「一の地方公共団体のみに適用される特別法」ということの意味でございますが、これは「一の地方公共団体」とありますが、それは特定の地方公共団体という趣旨に理解をいたしております。そして、「一の地方公共団体のみに適用される特別法」といいますのは、その特定の地方公共団体の組織、運営、機能について他の地方公共団体とは異なる特例を定める法律をいうものと解されております。  
ただいまお話がございましたように、個々具体の法律が憲法第95条に該当するかどうかを最終的に決定する権限は、その法案を審議された後議の議院の議長にあるとされておりますが、法案を提出いたしております政府の立場からその考え方を申し上げますと、現在御審議をいただいております阪神・淡路大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律案は、阪神・淡路大震災により著しい被害を受けた区域にある地方公共団体においては選挙事務に支障を来すおそれがあると考えられることから、その被害の程度により対象となる可能性のある地方公共団体の範囲を法律で定め、この範囲の地方公共団体から自治大臣が具体的に選挙を適正に行うことができる地方公共団体であるのかどうかということを御判断をされまして、そして指定をするということとしているものであります。その自治大臣の指定によって初めて地方公共団体が特定的に定まる、こういう形のものであります。  
したがいまして、この法案は、法案それ自体によりまして地方公共団体が特定をされるというものではございませんで、したがいまして憲法第95条に規定する「一の地方公共団体のみに適用される特別法」に該当するものではない。したがって95条の規定によるところのいわゆる住民投票というものを必要とするものではないというふうに理解をいたしておるところであります。  
ただいまお話の中に、選挙の期日を延期したり、議員あるいは長の任期を延長するということが定められているけれども、これらは地方公共団体の組織、運営にかかわるものではないか、こういう御指摘もございました。その点について申し上げますれば、選挙の期日を法律によって延期したり、あるいは議員、長の任期を延長するというようなことは、地方公共団体の組織、運営にかかわるものではないかという点を言われれば、それは地方公共団体の組織、運営にかかわるものではないかというふうに私どもも考えているところでございます。ただしかしながら、先ほど申し上げましたような意味合いで、特定の地方公共団体、具体的なある地方公共団体というものをこの法律が法律自体で定めまして行われているものではなく、自治大臣が指定をすることによって初めて地方公共団体が特定をされるという仕組みになっている法案でございますので、繰り返し申し上げますが、憲法第95条に言うところのいわゆる地方特別法と言われるものではない。したがって、住民投票というものが必要だということにはならないというふうに私ども理解をいたしているところであります。

選挙を行うことができないというのに、その期日を延期するのに憲法第95条の規定による住民の投票が必要になるというのであれば本末転倒であるから、結論としては上記のとおりでやむを得ないのだろう。
ただ、上記の内閣法制局長官の答弁にもあるのだが、憲法第95条の特別法に当たらない理由として、対象地域については、国務大臣が個別に指定等をするという制度にすることによって、法律自体は特定の地方公共団体について定めているわけではないと言われることが度々ある。しかし、今回のように特定の災害による被災地域を念頭に置くのであれば、おのずと対象となる地域は決まってくるのであるから、この法案自体は特定の地方公共団体について定めているわけではないという理由は、すっきりしないことも事実である。