裁量事項の条例化

2011年5月27日付け記事「条例で懲戒処分の基準を定めることの可否」に対して、裁量基準を条例で定めることについて、いわゆる具体化条例をめぐる議論があるとのコメントをいただきました。
その返信にも書いたのですが、私は、その記事を記載したときは、その議論は意識していなかったのですが、今回は、その議論を概観した上で、条例で懲戒処分の基準を定めることについて触れることにします。
裁量事項の条例化をめぐる学説として、阿部泰隆『政策法学講座』(P289)は、次のような考え方があると記載している。

  • 法律による委任規定がない場合には地方公共団体としては、行政手続法による審査基準を定めることになるが、これを条例の形式で定めることは、法律の法規創造力からして、許されないと解する(塩野宏行政法?(第2版)』(P148))。
  • 法律が要件効果規定たる基準を定めているときはそれを条例で変更することはできない。法律がこれを完全には定めていないときは行政に個別事情の考慮義務が課されているが、条例で基準を付加したところ、それ自体が要件効果規定としての構造を有する場合については、法律が予定する自治体機関にとっての要考慮事項の範囲が条例で縮減されるので違法であるが、他方、条例で付加される基準が要件効果規定の構造を持たず、裁量基準の定めにすぎないときは、それは法律が予定する考慮事項を左右するものではないので、違法ではない(小早川光郎「基準・法律・条例」『塩野宏古稀 公法学の変革と発展下』(P393,398))。
  • その権限自体が自治体の事務であるかぎりは、その権限の具体化として位置づけられる範囲内では、広く条例制定が認められる(岩橋健定「条例制定権の限界『公法学の発展と変革下巻』(P361,371))。

これを受けて、阿部先生は、私見として前掲書(P289〜)に次のように記載している。

たしかに、法律の執行権限は、法律の上では知事や市町村長に与えられており、これらの権限者は、法規を創造することはできず、行政内部的な裁量基準を設定できるにとどまるというのが伝統的なシステムである。 
しかし、それは機関委任事務時代の発想を引きずっているのではないか。この裁量は、機関委任事務時代とは異なって、首長に委ねられたものではなく、事務の帰属する都道府県や市町村に委ねられたものであり、団体の内部で、首長と議会のいずれの権限とするかは、団体の決定事項であると考えることはできないか。もしそうであるとすれば、法律の意味や許可基準を条例で定めて、首長の判断を拘束することは許容されると考えられる(もちろん、それが法律の枠をこえると違法である)。
   (中略)
塩野説は傾聴すべきものであるが、……法律の付与する裁量権をこえることのないルールが条例で定められればそれは法律の枠内として適法と見るべきである。

上記の学説のうち、塩野説であれば裁量事項の条例化は否定、岩橋説であれば肯定となり、小早川説であれば条例の定め方によるであろう*1
ところで、私は、阿部説が一番しっくりくる。それは、阿部先生は、機関委任事務時代の発想を引きずっていると指摘されているが、同様の事例として、条例と規則の関係があり(2007年6月30日付け記事「規則の活用〜文書管理に関する規程を規則にすることについて」参照)、そうした問題意識に共感するからである。
阿部説にしたがうと、裁量事項を条例化できるかどうかは個々の法律の解釈ということになる。そうすると、上記の2011年5月27日付け記事にそのままつながっていくかと思う。
多分にこじつけの感もあるので、また御意見等をいただければ幸いです。

*1:その条例において、処分権者の効果裁量を認める規定とするのであれば肯定、認めない規定とするのであれば否定ということになろうか。