「の規定に基づく」と「の規定による」(下)

ある規定で書かれている用語を他の規定で引用する場合の表現である「の規定による」について、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P705〜)は、単に「当該……規定を根拠としてされる「……」であることを示す場合の用語例である」としている。
しかし、参議院法制局第二部長 長野秀幸「法令用語の使い方25 【に規定する・の規定による】」『自治体法務研究 No.25』(P85)では、その見解を前提にしていると思われるが、次のように記載されている。

……「の規定による」は、ある規定で義務や権限などの規範として定められている用語を引用する場合に使います。

確かに「の規定による」の用法は、一般的にはこのとおりであるといっていいだろうが、その考え方に当てはまらないような例も存する。
例えば、次のような例がある。

<例1>
政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律(平成6年法律第106号)
(確認)
第5条 政党は、次に掲げる事項を中央選挙管理会に届け出て、中央選挙管理会の確認を受けることができる。
(1)〜(7) (略)
2・3 (略)
(届出に関する説明聴取等)
第6条 中央選挙管理会は、前条第1項の規定による届出書若しくは当該届出書に併せて提出する文書(以下「届出書等」という。)に形式上の不備があり、又はこれらに記載すべき事項の記載が不十分であると認めるときは、当該届出書等を提出した者に対して、説明を求め、又は当該届出書等の訂正を命ずることができる。

第5条のような規定を受けて「……の規定による届出」とする例はよくあるが、第6条は、「……の規定による届出書」としている。義務の規範として定められている用語を受けているといえなくもないが、多少違和感はあるところである。
また、次のような例もある。

<例2>
地方交付税法等の一部を改正する法律(平成22年法律第5号)
   附 則
(雇用対策・地域資源活用臨時特例費の基準財政需要額への算入)
第3条 平成22年度に限り、各地方団体に対して交付すべき普通交付税の額の算定に用いる地方交付税法第11条の規定による基準財政需要額は、同条の規定によって算定した額に、次の表に掲げる地方団体の種類、経費の種類及び測定単位ごとの単位費用に次項の規定により算定した測定単位の数値を乗じて得た額を加算した額とする。
 (表略)
2 (略)
(参考)
地方交付税法(昭和25年法律第211号)
基準財政需要額の算定方法)
第11条 基準財政需要額は、測定単位の数値を第13条の規定により補正し、これを当該測定単位ごとの単位費用に乗じて得た額を当該地方団体について合算した額とする。

この例は、さすがに規範として定められている用語の引用とはいえないのではないだろうか。
なお、例1と同じような規定として、次のような例がある。

<例3>
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)
   附 則
(国の無利子貸付け等)
第4条 国は、当分の間、独立行政法人に対し、その施設の整備で日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法(昭和62年法律第86号)第2条第1項第2号に該当するものに要する費用に充てる資金の全部又は一部を、予算の範囲内において、無利子で貸し付けることができる。この場合において、第45条第5項の規定は、適用しない。
2 (略)
3 前項に定めるもののほか、第1項の規定による貸付金の償還方法、償還期限の繰上げその他償還に関し必要な事項は、政令で定める。
4・5 (略)

例1は「届け出て」を「届出書」、例3は「貸し付ける」を「貸付金」として引用している。このように、多少意味内容を変えて引用したい場合には、「に規定する」というわけにはいかないだろう。そして、正確に書くのであれば、例1は「の規定による届出に係る届出書(文書)」、例3は「の規定による貸付に係る貸付金(金銭)」にでもするのであろうが、迂遠であるから、上記のようにしているのであろう。