基本構想の策定等を議会の議決事項とすることについて(上)

少し前になるが、洋々亭さんのサイトで、平成23年法律第35号による地方自治法の改正で、同法から市町村の基本構想に関する規定が削除されたため、従来どおり議会の議決を経て策定するためには、同法第96条第2項の規定に基づく条例の制定が必要になるが、その条例をどのようにしたらよいかという議論がなされていた。
そのなかで、首長提案とすべきか、議員提案とすべきか、また、基本構想の策定を義務付ける規定を設けるべきかというような議論もあったが、これらについては次回に触れることとして、今回は、単純に基本構想の策定等を議会の議決事項とする条例の案を考えてみることにする。(なお、他の自治体の例は、半鐘さんのブログの8月20日付けの記事を参照)
まず、地方自治法第96条の規定を次に掲げておく。

第96条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
(1) 条例を設け又は改廃すること。
(2)〜(15) (略)
*1 前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる。

既に地方自治法第96条第2項の規定に基づく条例が制定されていれば、その条例に項目を追加するだけであるので簡単であるが、そのような条例を持っている団体は、比較的少ないという印象を私は持っている。
その条例を有していない団体は、基本構想の策定等のみについて、新規条例の立案をすることになる。
まず、全体の構成をどのようにするかであるが、議会の議決事項とする項目が複数あれば、第1条で趣旨規定を置いて、第2条で議決事項を書くということも考えられるが、それが一つであれば、趣旨規定は書くまでのこともないので、条建てにする程のことはないだろう。
次に、具体的にどのような規定にするかであるが、法令の規定を根拠とした条例の立案をする場合には、その法令の規定をよく見ていると、おのずと条例の書き振りが浮かんでくるものである。その上で、適宜他の自治体の条例等を参考にすればよいのではないだろうか。
そこで、地方自治法第96条を見ると、議会の議決事項を「事件」といっている。そして同条第2項は、「条例で……議会の議決すべきものを定めることができる」と規定している。この「もの」は「事件」であるから、基本的な構文は、「○○は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条第2項の規定により定める議会の議決すべき事件とする」とすればよいことになる。
なお、「……の規定により定める議会の議決すべき事件とする」の部分は、「……の規定により条例で定める議会の議決すべき事件とする」とすることなども考えられるが、この辺りは趣味の世界だろう(なお、2008年4月20日付け記事「法令で委任された事項を定める例規〜消防法第9条の2第2項(2)」参照) *2
そして、「基本構想」をどのように表現するかであるが、これは改正前の地方自治法の基本構想に関する規定の書き振りを参考にすればよい。その規定である同法第2条第4項の規定は、次のとおりである。

市町村は、その事務を処理するに当たつては、議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行なうようにしなければならない。

基本構想は、「その地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想」といっており、「その地域における」は自治体の例規では書く必要はないので、「総合的かつ計画的な市(町・村)行政の運営を図るための基本構想」とすればよいのではないか。
最後に、条例の題名は、きちんと書けば「地方自治法第96条第2項の規定により定める基本構想の策定等を議会の議決すべき事件とする条例」となる(題名なので、適宜用語の省略等をすることは考えられる)。
以上、附則までまとめて書くと、次のようになる。

地方自治法第96条第2項の規定により定める基本構想の策定等を議会の議決すべき事件とする条例
市(町・村)行政の総合的かつ計画的な運営を図るための基本構想の策定、変更又は廃止をすることは、地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条第2項の規定により定める議会の議決すべき事件とする。  
附 則
この条例は、公布の日から施行する。

2点程補記する。
まず、「……の策定、変更又は廃止をすること」としている部分である。「……すること」としているのは、地方自治法第96条第1項各号の書き振りにならっている。そして、「策定、変更又は廃止」の部分は、一般的な計画の策定等を規定する場合の書き振りを参考にしているが、「変更」と「廃止」、特に「廃止」まで書くかは、よく検討する必要があるだろう。
次に、附則は、施行期日しか書いていない。条例上の「基本構想」は、その書き振りから、改正前の地方自治法の規定による基本構想と同じものであることは疑いがないので、特に経過規定を置くまでもなく、既に策定されている基本構想の変更等をする場合においても、この条例の規定の適用があると考えることができる。

*1:地方自治法第96条第2項には、項番号は付されていないが、便宜的に付しておく。

*2:自治体の例規を見ると「……の規定による議会の議決すべき事件とする」としている例もあるが、個人的には推奨しない。なぜなら、地方自治法第96条第2項が根拠となるのは、議会の議決事件とする条例を定めることであり、条例で定めた議決事件は、あくまでもその条例が根拠であって、同項の規定を根拠としているわけではないからである