準用と適用

「準用」と「適用」を説明するときには、両者を対比して行われることが多い。例えば、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P718)には、次のように記載されている。

「適用」ということが、その規定の本来の目的とする対象に対して規定を当てはめることをいうのに対して、「準用」とは、ある事象に関する規定を、それと類似する他の事象について、必要な変更を加えて働かせることをいう。

しかし、私は、この説明について、どうも腑に落ちないものを感じていたのだが、磯崎陽輔『分かりやすい法律・条例の書き方』の記載を見てすっきりしたことを覚えている。
同書(P90)には、次のように記載されている。

そもそも、準用と適用を選択可能な同じ効果をもたらす手法の一つとして考えることは適当でない。準用というのは、法技術的な手法であって、規定を簡略化するため、他の規定の形式を便宜借用するものであり、準用という手法を採用するかどうかは法技術的な判断にゆだねられている(簡単に言えば、書き振りの問題である。)。一方、適用は、法政策的に、そこで規定している対象の処理を他の規定にゆだねるということである。…… 
以上述べたように、準用と適用とは、形式的には似た手法であるが、その効果においては全く異なるものである。

「準用」と「適用」は、言わば次元が異なる用語であるのに、両者を対比して説明されていることが、自分には結果的に腑に落ちない説明になっていたのである。
そして、「適用」について、同書(P89)に次のような記載がある。

……適用についても、……二通りの用法があると考えるべきである。一つは、経過措置の規定でよく用いられるように、その規定がどの対象に対して当てはめられるのか明らかにするための用法である。「その規定の本来目的とする対象に対して規定を当てはめること」とは、このことを指すのであろう。もう一つは、対象の処理を他の規定にゆだねる用法である。言葉を変えれば、ある対象に他の規定を当てはめるものである。

つまり、「適用」をあえて説明しようとすると、「その規定の本来目的とする対象に対して規定を当てはめること」ということになるのだが、なぜ「適用」とわざわざ書かなければいけないかというと、どの規定を使うのか明確でない場合に、それを明確にする必要があるからということになるだろう。この点で、「準用」は法技術的な用語だが、「適用」は法技術的なものではないということなのである。