自治基本条例における住民の権利に関する規定

松下啓一先生が流山市の寺沢弘樹氏、住民参加・協働支援コンサルタントの今井邦人氏とともに、『自治体法務研究』に連載されている「市民協働立法のつくり方・実践編」は、この8月に発行されたNo.26で最終回を迎えたが、この回が例規に携わる者にとって一番興味を引かれる内容だったのではないだろうか。
ところで、そのなかで、次のような記載がある。

例えば、まちの将来を担う子どもたちに、まちづくりに大いに参加してもらうことを期待して、「未成年者は、まちづくりで発言する権利を有する」と書こうとする場合である。他方、市民全体については、「市民は、まちづくりに参加する権利がある」という条文もある。この場合、法規審査をすると、未成年者も同じ市民であるが、それにもかかわらず、あえて未成年者の規定をつくるのは、未成年者については、特に権利を制約するため(「発言」だけを認める権利)の規定であるということになってしまい、結果的に市民の思いと相反してしまうことになる。 そこで、担当者は知恵を出し、「未成年者がまちづくりに参加しやすいような仕組みをつくる」という規定をつくることで、未成年者のまちづくりへの参加を促進しようと考えるが、これは、一見すると、未成年者の権利を否定したようにみえることから、市民の反発を受けることになる。「行政は未成年者の参加に否定的である……」。……

実際、次の事例1のような規定を有する自治基本条例もある*1

<事例1>
(参加の権利)
第○条 市民等は、まちづくりに参加する権利を有している。
(子どもの意見表明の機会の保障)
第○条 市は、子どもが自己に関係のある事柄について、意見を表明できる機会を積極的に設けるよう努めなければならない。

上記論文に即して、事例1の原案は、次の事例2のようなものであったと想定する。

<事例2>
(参加の権利)
第○条 市民等は、まちづくりに参加する権利を有している。
(子どもの意見表明の権利)
第○条 子どもは、まちづくりで意見を表明する権利を有する。

上記論文によると、事例2の子どもの意見表明の権利の規定は、子どもについて発言だけを認めることになるという権利を制約するための規定になってしまい適当でないということになる。
しかし、それよりも私が事例2の規定を見て気になるのは、まちづくりで意見を表明することは、当然まちづくりに参加することに含まれるので、子どもの意見表明の権利の規定は、実際には意味がないものになってしまっていることである。
実際、事例2のような規定を有する自治基本条例もあるようであるが、やはり適当ではなく、事例1のように修正していくことは方向性としては正しいだろう。
ただ、事例1のような規定が上記論文のような誤解を受けるのは、言葉が足りないせいではないだろうか。そして、それは、参加の権利の規定との関係を記載することで解決すると思う。
例えば、次の事例3のような規定にすることが考えられる。

<事例3>
(参加の権利)
第○条 市民等は、まちづくりに参加する権利を有している。
(子どもの意見表明の機会の提供)
第○条 子どもが前条の権利を行使するに当たっては、子どもにまちづくりに関する意見を表明する機会を与えることが特に重要であることにかんがみ、市は、子どもが当該意見を表明することができる機会を積極的に設けるよう努めなければならない。

自治体の例規を見ていると、雑な感じを受けることがあり、もう少し丁寧に書いた方がよいと思うことがよくある。特に自治基本条例のような場合、その理念などの考え方をきちんと書く必要があるだろうから、より丁寧に書く必要があるのではないだろうか。
ところで、原案を作成した人にとっては、個々の用語にこだわりを持っているケースがよくある。私は、原案を修正する場合、その規定の考え方とともに、こだわりがある用語があるのかどうかを聞き、どうしても使いたい用語があれば、できる限りそれを使うようにしていた。
そうすると、仮に、事例2を作成した人のこだわりが、子どもの意見表明の「権利」という用語である場合もある。しかし、その用語を使って適切な条文にするよい案は、私には思い浮かばない。

*1:事例1は、ある自治体の自治基本条例の規定を、引用している論文の記載に即して一部修正したものである。