余計なお世話〜情報公開法と情報公開条例の関係

『法学セミナー』で連載されている「法令エッセイクロスセッション 国法・自治体法の現場から」は毎回楽しみに拝見していますが、2011年10月号でid:kei-zuさんは、情報公開法と情報公開条例の関係について記載されておられます。
情報公開については、kei-zuさんも書かれているが、国と自治体との間できちんと棲み分けが出来ている分野といえるが、情報公開法の立案時に、自治体の情報公開についても規定すべきかどうかという議論もなされている。この点について、松井茂記『情報公開法(第2版)』(P407〜)には、次のように記載されている。

法律的にいえば、国の情報公開法の中で、情報公開法を地方公共団体にも適用し、地方公共団体保有する行政情報についても情報公開を定める可能性もあった。そして、情報公開法を地方公共団体の機関が保有する情報に適用することとしても、地方自治の本旨に反して違憲となるとは考えられないといわれている。 
しかし、情報公開法は、これを選択しなかった。情報公開法は、その第41条*1で、「地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない」と定めている。つまり、情報公開法は、地方公共団体が先駆的に情報公開制度を導入し、情報公開を進めてきたこと、そして地方分権の流れの中で、なるべく地方の事柄は地方に任せておくことが望ましいことから、法律によって地方公共団体の情報公開を一律に定めないことにしたのである。

陣取り合戦という意味では、結果だけを見ると自治体が勝ったといえなくもない。
しかし、努力義務にとどまる規定とはいえ、情報公開法に地方公共団体の情報公開に関する規定を設けたのは、余計なお世話という感じがする。
さらに、この規定は、法制執務的にも難がある。情報公開法の題名、それから第1条及び第2条を次に掲げる。

行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(目的)
第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。
(1) 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関
(2) 内閣府宮内庁並びに内閣府設置法(平成11年法律第89号)第49条第1項及び第2項に規定する機関(これらの機関のうち第4号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
(3) 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項に規定する機関(第5号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
(4) 内閣府設置法第39条及び第55条並びに宮内庁法(昭和22年法律第70号)第16条第2項の機関並びに内閣府設置法第40条及び第56条(宮内庁法第18条第1項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの
(5) 国家行政組織法第8条の2の施設等機関及び同法第8条の3の特別の機関で、政令で定めるもの
(6) 会計検査院
2 (略)

これらの規定等を見れば分かるように、情報公開法の「行政機関」はあくまでも国の機関であり、情報公開法はあくまでも国の行政機関の情報公開に関する法律であって、この法律に自治体の情報公開に関する規定を設けることは、取って付けた様な感じがする。
ちなみに、個人情報保護や行政手続の分野における法律にも、自治体のそれぞれに関する規定はある。ただ、個人情報保護については、「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」ではなく、通則法ともいえる「個人情報の保護に関する法律」に書かれているので、体系的には問題はない。そして、行政手続については、行政手続法に書かれているものの、行政手続という分野の性格上、そもそも国と自治体との間の棲み分けがきちんとできていないので、行政手続法に書かれていても、結果として違和感はない。
しかし、情報公開法は、あくまでも国の行政機関の情報公開に関する法律であるため、自治体に関する規定を書くことは無理があるのである。したがって、現在国会に提出されている情報公開法の改正法案に規定されているインカメラ審理に関する手続について、情報公開条例に基づく情報公開についても情報公開法で規定しようとしているが、どうしても違和感が生じてしまう。インカメラ審理に関する手続は、一般的な手続ではないということで情報公開法に規定しようとしているのであろうが、本来であれば訴訟法で規定すべき事項である。仮に、訴訟法でインカメラ審理に関する手続を規定することとし、情報公開条例に基づく情報公開についても対象にするのであれば、自然であるのに……。

*1:現行の第25条