規則の内容を議会で審議することについて

かつて条例案の審議において、議会側がその委任事項に関する規則案を出さなければ審議に応じないと主張したことがあった。
規則委任事項は、委任された範囲で首長が定めるものであり、その案文をあらかじめ出せというのは、少しずれた議論だと思っていた。
しかし、戦後初期のものではあるが、法律案の審議においても、第1回国会衆議院農林委員会(昭和22年8月4日)における食料品配給公団法案及び油糧配給公団法案に関し、次のような議論がなされたことがある。

重富委員 ……前囘の政府委員の説明では、食料品については、この以上はつけ加える考えはないといつたようなお話しがあつたのでありますが、そうするとその他命令に委任するという事項は取り止めることができないのかということが一つであります。しかも油糧に關しましては非常に抽象的になつてります。今和田長官の御説明によると、具體的にそれぞれを相談してきめるというふうな話しがありましたが、そうするとそれは細目別に言うべきだと思います。すなわち菜種とか、茶種油とか、あるいは菜種油がすというふうになさるべき筋合のものではないかと思いますが、しかるにもかかわらず、本法案におきましては、ただ單に油脂、油かす、油脂原料というようにきわめて抽象的にこれが記載してあります。こういうことであとの具體的なことは全部命令に委任してあります。それでは民間の業者は、油に關する限りはどういうふうにしたらよいか、いつ公團に取上げられるかわからないということで、今日の今日の油が足らないときであるにもかかわらず、この法案が出たなら業者は非常に迷うに違いない。いわゆる生産がやりにくくなつてくる。いつ取上げられるかわからぬというふうなことになると思うのであります。從いまして、この點を全面的に命令に委ねておられるのはどういうわけか、このことがお尋ねいたしたいのであります。すなわち公團が取扱うようになりましたならば、それらの業者はその營業の自由に著しく制限を受けるか、または營業をやめなければならないと思います。かようなことが命令でなされてよいかどうか、憲法第22條の精神に反する。國民の職業を奪うことは、法律をもつてするもよほど慎重になされなければならぬと思います。それが簡單に全面的に油糧關係においては命令に委ねられておるのは一體どういうわけかと思います思います本案は眞にやむを得ないからするという特異な法律であることは、先ほどからもたびたび御説明の中にもあります。またきわめて狹議な範囲でやらねばならぬ。こういうことも言われております。であるならば、今日すでにその品目は明瞭でなければならぬと思います。それをあらかじめ不明瞭な形で法律の上に明記しておいて、しかもそのことは業者の職業の自由を奪うというような形にまでくるにもかかわらず、かようなことがしてあるのは一體どういうわけか。こういうようなことが從來行われておつた。そのことが今日の日本を來らしめたのであります。すなわち何でもかんでも命令ならよい。このことが専制政治が行われたもとであります。新憲法のもとにおいても、なおこういうことをしなければならないが、この點を特にお願いしたいのであります。……
○和田國務大臣 お答えいたします。最初の油糧公團の取扱う物資を命令に讓つた點でありますが、これは命令事項をお配りいたしましてその命令の中ではつきりいたすことになつておりまして、なんでもかんでも抽象的に書いてあるというわけではございません。一々の項目を法律に列擧することともまた一つの方法ではありましようが、命令にその項目をはつきり書き、その法律と命令とが一體となつていくということに從來の法律慣例もなつておりますので、その點は御了承願いたいと思います。それから私が流通秩序の確立について、今後打ち立てらるべき公團については、關係方面に個々のものについていろいろ打合せをすると申しましたが、流通秩序確立のあの要綱ができまするまでに、もうすでにその了解を得ておりましたものにつきましては、流通秩序確立の中にもはつきりとうたつておるのでありまして、油糧その他二、三のものについては、たしか項目としてあげておつたように記憶いたすのであります。從つて命令に書きますることは、私は憲法の違反ではないと思うのでありまして、ただ法律を審議いたします際には、どの範囲のものをやるかという命令事項をはつきりとお示しして、同じに、御審議願つていくということになるのは當然のことだと考えるわけであります。……
○三堀政府委員 油の内容につきましてちよつと私から補足して申し上げておきます。油糧配給公團法の方におきまして、特に命令で定めるというような書き方をいたしまして、内容を明瞭にしましたことは御承知と思いますが、現在の動物油脂、植物油脂に關しての統制規則で、統制されております物資は非常にたくさんあるわけであります。一例をあげましても、指定植物油脂として指定されておりますものにつきましては、桐油、ヤシ油、ヒマ油、だいず油、カボツク油、落花生油、オリーヴ油等々たくさんあるのであります。讀み上げるのにもたいへんなほどたくさんあります。從つてこれをこれを一々法律に書くわけにわまいりませんので、命令で定めるというので命令に讓つたわけでありまして、この命令の内容は、現在の規則で統制されておりますものを、大體そのまま引移つて統制をするつもりなんでありまして、殊にこのために新しく統制項目が非常にうえると言うことはございません。またこれによつて業者が職を奪われるとか、あるいはその間に混乱を生ずるということもないわけでありまして、その點は資料として公團取扱いの油糧の内容はあとでお配りいたしたいと思います。
重富委員 ただいま御説明がありましたが、まとが外れておるように思います。まず最初の分は油糧の關係についてでありますが、命令で定めるということについて、その命令で定めるという考え方が間違いである。でありますから、命令で定めると言わなくても、本法の別表としてここに取上げても差支えないのではないか。それを、命令で定めると言う、その考え方に私は、間違いがあるのではないかと思います。これをどうして命令で定めるということにされたのかという事をお聽きしたいのであります。……
○和田國務大臣 ……命令に定めること、その考え方がどうかというお話でありますが、私はそれは意見の相違になると。思うのでありますやはり法律というものが全體をなすのでございまして、法制の中にいろいろなものを書いていく書き方もありますが、大體今までの日本の法律慣習によりますと、今言つたような。非常に複雑な項目のような事柄は、命令に讓るのが慣例でありますので、私はその慣例に從がつたのだろうと思うのでありまして、從つて命令の中ではそれがはつきりするわけでありますから、命令で書くことはどうか。こういうことになつてきますと、私はそこに多少違つた考え方をもつておるわけであります。
重富委員 今の問題を一箇所に集中したいと思いますが、命令において定めるということは、大體從來といえども、おおむねその法律を實施するために必要なものに限られておつたのではないかと思います。特に國民の權利、國民の生活の保障、それに關連するものまでが命令に委ねられておるというふうなことはきわめて少く取扱われておつたように思います。しかしそれがおおきく取扱われたがために、今日の日本の悲惨な状態をもつてきた。そうした端緒を開くおそれがまた新憲法のもとにも起つてくる。このことはなるほど小さな事柄かもしれません。しかしながら本質的には、この公團が取扱う品物に關しては、國民はそれの取扱いに關して極端に自由を制限され、あるいは營業の自由を完全にとられてしまうのであります。從つて新憲法のもとにおきまして、この問題についても、そう品質的に考えますときに、ただ從來の慣例がそうであるから、そうしてもいいではないかといつたような意味でお考えになることは、どうかと考えられますので、新憲法のもとにおけるこの仕事の取扱いとしては、もつと根本的な御意見があると思います。その點をお伺いいたしたいのであります。
○和田國務大臣 どうも御意見の相違になりますから何でありますが、私はすべての事柄を法律で書くのも一つの行き方であると思います。しかしそれと同時に非常に重要なことは、勅令にある場合は出てくる。ところがある場合には命令に讓つていただく。ということは法律自體の命令事項、あるいは勅令事項と、全體として國會で愼重審議していくわけでありますから、その點については、法律を定めますときに命令事項がはつきりいたしておつて、それが法律と不可分の關係で審議されるならば、あとは立法の技術の問題になるのではないかと考えるのでありまして、命令に讓ずるから何もかもすべてが曖昧模糊としておるということには、私はならないのではないかと考えます。しかし非常に必要な關連のあることでありますから、あるいは勅令で書いたり、また法律の中でできるだけのことを書いていくということは、もちろん必要であるということは、これは私もそう思いますが、油糧公團の取扱物資の範圍の廣汎でありまするものについては、一つの便宜の手段としては許さるべきことではないかと考えております。
重富委員 議論にわたりますので多くはもうしませんが、今の考え方につきましては、依然として私は釋然といたさないのでございます。ただ種類が多いから、多くないからと言いましても、國民の憲法で確立されようとしておる權利に對して、これをただ命令でとやかくするということはいけない、憲法の22條の問題に關連しておることを一應申しまして、これ以上質問いたしましても見解の相違ということになると思いますので、一應前段の分につきましては、私としては質問を打切ります。後段の安定本部長官が主務大臣との關係についての承認といつた言葉は、きわめて簡單にあつありと考えておいでになるのは一體どういうわけであろうか。とにかくそれは結局憲法の66條の關係に絡んでまいりますので、私は憲法に關しましてはよく知りませんが、とにかく私の見た眼は、あるいは二、三學者の意見を聽いた範圍におきましては、少くともこの點に關しては、相當な疑義のあることは間違いないと思います。いわゆる承認を經るということが、ただ簡單なる打合せ事項であるというふうには考え得られない承認を經なければならないということが、政府部内の問題であればいざしらず、法律の上においてその地位を確立するという形で現れておりますので、その點からしますれば、憲法66條との關係におきましては、相當な問題を含んでおると考えるのであります。その點についてそうではないのだ、どこまでも經濟安定本部總務長官の立場は、他の各省大臣と同列にあるということが證明できるならば別でありますが、それができなければ私といたしましては承服できないような氣がいたしております。
○和田國務大臣 油糧の點の命令に關する點でありますが、これは油糧公團で全部取扱うことには一應なつておりますが、それを命令でいろいろ制限なんかすることを必要とするので、命令に一應讓つておくという點があるのであつて、どうもこの點私は意見の相違になりますから、私は議論はいたしませんが、ここで御了解願いたいのは、私は法律に書くことがいかんということを申しておるのではないのであります。法律と命令とが一つになつて、これが全體としてやはり審議すべきものであつて、法律で何もかもこまかいところまで、英米法のようにできるだけ書いてしまうということもありましようし、大陸法のように、大きな條項を書いて、こまかいことを命令に讓るということもありますから、それが全體をなしておりますから、その法律々々によつて、あるいは命令に讓る事項がおのずと限定されてくる、命令に讓つていく方が實際上の場合においても便利だというようなものについては、やはり立法技術の方え讓るということを申し上げておるのであります。その點一つ御了承を是非お願いしたいと思います。
重富委員 今の點はやはり議論にわたると思いますけれども、やはり私の言わんとするところが長官にまだ十分に御了解いただけないようでありますが、要するにこの事柄が國民の職業の自由ということに關連しておるから申し上げるのでありまして、便宜、不便宜というようなことで片づけられる筋合のものではないということを申しておることを、一應御了承願いたい。從つて便宜上こうするのだということはむしろ改めていただきたい。その便宜上こうするのだということが、今まで日本がずるずるべつたりにすべてを命令でやつて、専制政治が行われたものと同じである。これを私は恐れるのであります。この點を御了承願いたい。
○和田國務大臣 よくお話はわかりました。私の意見とあまり違わないと思うのでありますが、結局法律で書いておけば、あと改正をしたり、いろいろするときの場合においても、きちんとした手續がとれるから、そこではつきりする。殊に國民の營業その他に關係することであるから、法律で書けという意見もあります。しかし私の言つておるのは、油糧の問題で、きちんとしたものでありますから、それを限定する意味で、物資を加えて行くという關係でなしに、むしろ限定する意味であるから、こう考えにおいては、命令と一體となつて御案議願つて差支えないのではないか、こういう意見であります。あなたの御意見の御趣旨はよくわかりました。
重富委員 今の油糧の關係につきましても、お話は命令として全體的に、油糧は總體的に全部やるのだからということでありますけれども、しかしながらこの條文から見れば、この中から選擇的にやるという考え方も起つてまいります。この點は十分に御研究願いたいのであります。總合的に全部やるのだからという御説明でありますけれども、油糧配給公團の第一條の關系から見ますときは、ここに示されたものを、命令でもつて内部的には選擇的にやる。たとえば油脂にいたしても菜種の油は今度命令でのけるのだ、しかしながらこの方は命令で依然としてやるのだという選擇の範圍を残されておるという反對解釋も出てきます。そこから國民に非常な不安と動搖を與えるものであるというように考えます。それから先ほどの承認云々についての御答辯をいただきたい。
○和田國務大臣 それは前に一應御答え申し上げたことで御了承を願います。
重富委員 それでは了承しないという意味において、もう私の質疑を打切ります。

ここでの議論は、質問者の命令に委任することに対する疑念に対し、政府側の答弁は、それは立法技術の問題だとしつつ、命令の内容も一緒に審議してもらうので、それでよいではないかといった内容になっている。
ただ、命令は、当初のものはともかくとして、その後は政府において改正できるわけだから、上記の答弁は、説得力のあるものとは思えない。