大阪府教育基本条例案(上)

今回から2回にわたって、大阪府教育基本条例案(以下このシリーズで「条例案」という。)について取り上げる。
なお、大阪維新の会条例案について、9月16日に府教育委員会と意見交換を、10月3日に府立学校長と意見交換を行っている。
条例案の考え方は、次の前文に現れていると思われる。

大阪府における教育行政は、選挙を通じて民意を代表する議会及び首長と、教育委員会及び同委員会の管理下におかれる学校組織(学校教職員を含む)が、法令に従ってともに役割を担い、協力し、補完し合うことによって初めて理想的に実現されうるものである。教育行政からあまりに政治が遠ざけられ、教育に民意が十分に反映されてこなかった結果生じた不均衡な役割分担を改善し、政治が適切に教育行政における役割を果たし、民の力が確実に教育行政に及ばなければならない。
教育の政治的中立性や教育委員会の独立性という概念は、従来、教育行政に政治は一切関与できないかのように認識され、その結果、教員組織と教育行政は聖域扱いされがちであった。しかし、教育の政治的中立性とは、本来、教育基本法第14条に規定されているとおり、「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育」などを行ってはならないとの趣旨であって、教員組織と教育行政に政治が関与できない、すなわち住民が一切の影響力を行使できないということではない。
地方教育行政の組織及び運営に関する法律では、第23条及び第24条において、教育委員会地方公共団体の長の職務権限の分担を規定し、教育委員会に広範な職務権限を与えている一方、第25条においては、教育委員会及び地方公共団体の長は、事務の管理・執行に当たって、「条例」に基づかなければならない旨を定めている。すなわち、議会が条例制定を通じて、教育行政に関与し、民意を反映することは、禁じられているどころか、法律上も明らかに予定されているのである。

要約すると、教育に民意=政治を関与させる必要がある。そのため条例を制定するが、その根拠は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)第25条だというのである。
では、その地教行法の規定はどのようになっているか、次に掲げる。

教育委員会の職務権限)
第23条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
(1) 教育委員会の所管に属する第30条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。
(2) 学校その他の教育機関の用に供する財産(以下「教育財産」という。)の管理に関すること。
(3) 教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。
(4) 学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒、児童及び幼児の入学、転学及び退学に関すること。
(5) 学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。
(6) 教科書その他の教材の取扱いに関すること。
(7) 校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。
(8) 校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
(9) 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
(10)学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
(11)学校給食に関すること。
(12)青少年教育、女性教育及び公民館の事業その他社会教育に関すること。
(13)スポーツに関すること。
(14)文化財の保護に関すること。
(15)ユネスコ活動に関すること。
(16)教育に関する法人に関すること。
(17)教育に係る調査及び基幹統計その他の統計に関すること。
(18)所掌事務に係る広報及び所掌事務に係る教育行政に関する相談に関すること。
(19)前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。
(長の職務権限)
第24条 地方公共団体の長は、次の各号に掲げる教育に関する事務を管理し、及び執行する。
(1) 大学に関すること。
(2) 私立学校に関すること。
(3) 教育財産を取得し、及び処分すること。
(4) 教育委員会の所掌に係る事項に関する契約を結ぶこと。
(5) 前号に掲げるもののほか、教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行すること。
(職務権限の特例)
第24条の2 前2条の規定にかかわらず、地方公共団体は、前条各号に掲げるもののほか、条例の定めるところにより、当該地方公共団体の長が、次の各号に掲げる教育に関する事務のいずれか又はすべてを管理し、及び執行することとすることができる。
(1) スポーツに関すること(学校における体育に関することを除く。)。
(2) 文化に関すること(文化財の保護に関することを除く。)。
2 地方公共団体の議会は、前項の条例の制定又は改廃の議決をする前に、当該地方公共団体教育委員会の意見を聴かなければならない。
(事務処理の法令準拠)
第25条 教育委員会及び地方公共団体の長は、それぞれ前3条の事務を管理し、及び執行するに当たつては、法令、条例、地方公共団体の規則並びに地方公共団体の機関の定める規則及び規程に基づかなければならない。

これらの規定を見ると、地教行法第23条から第24条の2までに定める事務について、条例等によることとされているものがあり(例えば、教育機関の設置、管理及び廃止は、地教行法第23条第1号の規定により教育委員会の職務権限になっているが、その設置は地教行法第30条により条例によることになっている)、地教行法第25条は、そうした条例等に基づかなければいけないとしているだけであって、一般的な条例制定の根拠になるわけではない。
したがって、条例案の根拠を地教行法第25条に求めていること自体適当でないのである。