大阪府教育基本条例案(下)

条例案は、懲戒処分の基準、懲戒処分等を行うに当たって人事監察委員会が審査することとしていることなど、職員基本条例案と同様な問題があるが、それは改めて触れることはしない。
条例案には、教育委員会に対する政治の関与として、議会が関与する仕組みが見られるが、ここではその規定を中心に触れていくことにする。
1 条例案第13条

(議会の関与)
第13条 府教育委員会が、第6条第2項に定める目標に従っていない場合、第6章の規定に基づき懲戒若しくは分限処分又はその手続をすべきであるにもかかわらずこれを怠った場合等、その事務の管理及び執行を怠っているおそれがあると認められる場合、議会は府教育委員会に対し、報告を求めることができる。
2 議会において、府教育委員会がその事務の管理及び執行を怠っていると議決した場合、知事は府教育委員会に対して是正を図るよう要請するものとする。

第1項は、議会が教育委員会に報告を求める場合の例示として、懲戒の手続を怠った場合などを挙げている。このような場合に議会が教育委員会に報告を求めることが適当かどうかはともかくとして、議会には一般的な検査権が認められている以上(地方自治法第98条第1項)、そもそも書かずもがなの規定である。
第2項は、議会の議決に基づき知事が教育委員会に是正を要請する規定になっている。このような権限を知事に与えたことは、長に総合調整権があることを念頭に置いているのかもしれないが(地方自治法第180条の4参照)、このような権限を長の総合調整権に求めることは無理であろう。
2 条例案第18条

(任用)
第18条 教員の任用に当たっては、府教育委員会は校長の意向を尊重しなければならない。
2 府教育委員会は、学校をまたぐ教員の人事異動に当たっては、両学校の校長の意見を尊重しなければならない。
3 府教育委員会は、前2項の校長の意向に反する人事を行った場合、その旨及び具体的理由を議会に対して報告しなければならない。

この規定は、教員の人事は、できる限り校長の意向に沿ったものとする内容になっている。その適否はともかくとして、第3項で、校長の意向に反する人事を行った場合には、教育委員会は議会に報告することとしているが、この教育委員会の義務は尊重義務に過ぎないため、仮に議会が不適切と判断しても、上記の第13条第2項を適用することはできず、結局のところこの規定がどのような意味を持つかはよく分からない。
3 条例案第42条

(適切な処分を行う責務)
第42条 校長及び府教育委員会は、この章の第1節から第3節の規定に基づく適切な処分を迅速にとらなければならない。
2 前項に違反した場合は、府教育委員会は、議会に報告しなければならない。

第42条は「第6章 懲戒・分限処分に関する運用」の一条文であり、同章第1節の節名は「懲戒処分の手続及び効果」、同章第2節の節名は「分限処分の手続及び効果」、同章第3節の節名は「職務命令違反に対する処分の手続及び効果」となっている。
第2項で、第1項に違反した場合には、教育委員会は議会に報告しなければならないとしているが、ナンセンスとしか言いようがない規定である。

私は、現在の教育にどのような問題があって、どのようにすべきかということを語るだけの知識はないので、ここでは、例規として見た場合に気になる点を取り上げてきた。
ただ報道に接する限りでは、現状を変えようとしてこのような条例案を提出しようとする気持ちも分からないではない。しかし、それを改めるためのシステムがいかんせん稚拙としかいいようがない。
理念は立派でも、文字にうまく表せないという例はよくあるところである。今回は、立法技術もさることながら、条例化することに無理があるのではないかと思う。