非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて〜最高裁判決から

行政委員の月額報酬「適法」 最高裁が初判断、住民逆転敗訴
選挙管理委員会などの非常勤の行政委員に、勤務日数に関わらず定額の月給を支払うことの是非が争われた訴訟の上告審判決が15日、最高裁であった。第一小法廷(横田尤孝裁判長)は月額制は適法として、支出差し止めを命じた一、二審判決を破棄、住民側請求を退けた。被告の滋賀県側逆転勝訴が確定した。
地方自治法は勤務日数に応じた報酬を原則としつつ、条例で定めれば日当制以外も可能としている。同小法廷は「同法は日当制以外の報酬制度の要件を定めておらず、議会の裁量に委ねている」との初判断を示した。
そのうえで「行政委員は専門性が求められ、形式的な登庁日数だけでは勤務実態を評価できない」と指摘。平均で月約2日の登庁に約20万円を支払う滋賀県の月額制に、裁量権の逸脱・乱用はないと結論付けた。
5人の裁判官の全員一致。裁判長を務めた横田裁判官は「報酬水準などは住民に十分説明できる内容にすべきだ」との補足意見を付けた。
2009年1月の一審・大津地裁は「月額制は地方自治法の趣旨に反する」として、県側に支出差し止めを命じた。昨年4月の二審・大阪高裁も「月額制は著しく妥当性を欠く」とした。
滋賀県は一、二審の敗訴を受けて、一部の委員について日当制を導入したほか、神奈川県や静岡県山口県などでも日当制への切り替えが進んでいる。原告の吉原稔弁護士は判決後、記者会見し「経費を節減しようとする流れに逆行する判決で遺憾だが、訴訟を通じて行政を変える一石を投じたことに満足している」と述べた。
2011年12月15日付け日本経済新聞配信

内容についてコメントしたいことはほとんどないのだが、これまで下級審の判決を取り上げてきたので、取り上げておくことにする。
判決文中の理由は、次のとおりである。

(1) 法203条の2第2項ただし書は,普通地方公共団体が条例で日額報酬制以外の報酬制度を定めることができる場合の実体的な要件について何ら規定していない。また,委員会の委員を含め,職務の性質,内容や勤務態様が多種多様である普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。以下「非常勤職員」という。)に関し,どのような報酬制度が当該非常勤職員に係る人材確保の必要性等を含む当該普通地方公共団体の実情等に適合するかについては,各普通地方公共団体ごとに,その財政の規模,状況等との権衡の観点を踏まえ,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情の総合考慮による政策的,技術的な見地からの判断を要するものということができる。このことに加え,前記1(2)の昭和31年改正の経緯も併せ考慮すれば,法203条の2第2項は,普通地方公共団体の委員会の委員等の非常勤職員について,その報酬を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で,条例で定めることによりそれ以外の方法も採り得ることとし,その方法及び金額を含む内容に関しては,上記のような事柄について最もよく知り得る立場にある当該普通地方公共団体の議決機関である議会において決定することとして,その決定をこのような議会による上記の諸般の事情を踏まえた政策的,技術的な見地からの裁量権に基づく判断に委ねたものと解するのが相当である。したがって,普通地方公共団体の委員会の委員を含む非常勤職員について月額報酬制その他の日額報酬制以外の報酬制度を採る条例の規定が法203条の2第2項に違反し違法,無効となるか否かについては,上記のような議会の裁量権の性質に鑑みると,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情を総合考慮して,当該規定の内容が同項の趣旨に照らした合理性の観点から上記裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものであるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。
(2) 本件における上記の諸般の事情のうち,まず,職務の性質,内容,職責等については,そもそも選挙管理委員会を始め,労働委員会,収用委員会等のいわゆる行政委員会は,独自の執行権限を持ち,その担任する事務の管理及び執行に当たって自ら決定を行いこれを表示し得る執行機関であり(法138条の3,138条の4,180条の5第1項から3項まで),その業務に即した公正中立性,専門性等の要請から,普通地方公共団体の長から独立してその事務を自らの判断と責任において,誠実に管理し執行する立場にあり(法138条の2),その担任する事務について訴訟が提起された場合には,その長に代わって普通地方公共団体を代表して訴訟追行をする権限も有する(法192条等)など,その事務について最終的な責任を負う立場にある。その委員の資格についても,一定の水準の知識経験や資質等を確保するための法定の基準(法182条1項,土地収用法52条3項等)又は手続(法182条1項,労働組合法19条の12第3項,土地収用法52条3項等)が定められていることや上記のような職責の重要性に照らせば,その業務に堪え得る一定の水準の適性を備えた人材の一定数の確保が必要であるところ,報酬制度の内容いかんによっては,当該普通地方公共団体におけるその確保に相応の困難が生ずるという事情があることも否定し難いところである。そして,滋賀県選挙管理委員会の業務も,前記1(5)のとおり,国会及び県議会の議員並びに県知事の選挙の管理という重要な事項に関わるものを中心とする広範で多岐にわたる業務であり,公正中立性に加えて一定の専門性が求められるものということができる。
また,勤務の態様,負担等については,本件委員の平均登庁実日数は1.89日にとどまるものではあるものの,前記1(5)のように広範で多岐にわたる一連の業務について執行権者として決定をするには各般の決裁文書や資料の検討等のため登庁日以外にも相応の実質的な勤務が必要となる上,選挙期間中における緊急事態への対応に加えて衆議院や県議会の解散等による不定期な選挙への対応も随時必要となるところであり,また,事件の審理や判断及びこれらの準備,検討等に相当の負担を伴う不当労働行為救済命令の申立てや権利取得裁決及び明渡裁決の申立て等を処理する労働委員会や収用委員会等と同様に,選挙管理委員会も選挙の効力に関する異議の申出や審査の申立て等の処理については争訟を裁定する権能を有しており(公職選挙法202条等),これらの争訟に係る案件についても,登庁日以外にも書類や資料の検討,準備,事務局等との打合せ等のために相応の実質的な勤務が必要となるものといえる。さらに,上記のような業務の専門性に鑑み,その業務に必要な専門知識の習得,情報収集等に努めることも必要となることを併せ考慮すれば,選挙管理委員会の委員の業務については,形式的な登庁日数のみをもって,その勤務の実質が評価し尽くされるものとはいえず,国における非常勤の職員の報酬との実質的な権衡の評価が可能となるものともいえない。なお,上記の争訟の裁定に係る業務について,一時期は申立て等が少ないとしても恒常的に相当数の申立てを迅速かつ適正に処理できる態勢を整備しておく必要のあることも否定し難いところである。
以上の諸般の事情を総合考慮すれば,本件委員について月額報酬制を採りその月額を20万2000円とする旨を定める本件規定は,その内容が法203条の2第2項の趣旨に照らして特に不合理であるとは認められず,県議会の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとはいえないから,同項に違反し違法,無効であるということはできない。

原審(高裁)は、地方自治法第203条の2第2項について、立法過程を詳細に考慮した上で解釈を行っているが、最高裁は、むしろ文理により忠実な解釈をしており、結果として妥当なところに落ち着いたのではないだろうか。
特に、2009年1月30日付け記事「非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて」で触れたように、下級審は、行政委員が執行機関の委員であることを考慮しているとは言い難かったが、最高裁はその点について考慮しており、適切な判断であると思う。
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