議会に附属機関を置くことについて

『法学セミナー』で連載されている「法令エッセイ クロスセッション 国法・自治体法の現場から」は毎月楽しみに拝見しているが、今回(2012/01/No.684)は、元衆議院法制局参事の吉田利宏氏が、国会に置かれた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「事故調査委員会」という。)に関連して、自治体の議会に附属機関を置くことについて記載されている。このことについては、既にネットでも取り上げられているが、興味深い問題なので、私も取り上げておくことにする。
同論文では、かつて岐阜県多治見市が政府に「議会への附属機関の設置特区」を求め、総務省の回答は、次のようなものであったが、国会に事故調査委員会が置かれることで、この回答は決定的に賞味期限切れになったということができるとしている。

議会は住民の代表である議員により構成される合議制の議事機関として、自らが多様な意思を反映させて意思決定を行う機関であり、その性格上附属機関の設置はなじまない。

事故調査委員会の権限は、次のとおりである(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法第10条参照)。

(1) 平成23年3月31日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故(以下「東京電力福島原子力発電所事故」という。)の直接又は間接の原因を究明するための調査を行うこと。
(2) 東京電力福島原子力発電所事故に伴い発生した被害の直接又は間接の原因を究明するための調査を行うこと。
(3) 関係行政機関その他関係者が東京電力福島原子力発電所事故に対し講じた措置及び東京電力福島原子力発電所事故に伴い発生した被害の軽減のため講じた措置の内容、当該措置が講じられるまでの経緯並びに当該措置の効果を究明し、又は検証するための調査を行うこと。
(4) これまでの原子力に関する政策の決定又は了解及びその経緯その他の事項についての調査を行うこと。
(5) 前各号の調査……の結果に基づき、原子力に関する基本的な政策及び当該政策に関する事項を所掌する行政組織の在り方の見直しを含む原子力発電所事故の防止及び原子力発電所の事故に伴い発生する被害の軽減のため講ずべき施策又は措置について、提言を行うこと。
(6) 前各号に掲げる事務を行うため必要な調査及び研究を行うこと。

上記のとおり事故調査委員会の権限のほとんどは調査を行うことであるので、国会に事故委員会が置かれたことをもって、一般的に議会に附属機関を置くことの論拠とはならないように私は感じる。
そもそも事故調査委員会の業務については、本来は行政のやることなのであろうが、議会の存在意義云々が言われるなか、何よりもその存在意義を示すという意図があるのではないだろうか。そうすると、今回の事故調査委員会の事例は、前例としては否定することはできないが、それ以上の意味を見出すことはできないように思える。
ところで、議会に附属機関を置くことに関しては、情報公開条例に議会も実施機関としたことに伴って、同条例に基づく開示決定等に対する不服申立てがあった場合の諮問機関として設ける審議会の規定を議会にも及ぼすことができるかという問題が思いつく。この点について、東京都は条例自体も議会に関するものは別個になっているのだが、当該審議会に相当する機関として議員のみで組織する東京都議会情報公開推進委員会を置いている(東京都議会情報公開条例第24条参照)。以前はこのようなやり方が適切な方法であると思っていたが、議員が情報公開に関する格別の見識を有しているとは一般的には言えない以上、違和感がなくもない。それよりも、首長部局が置く附属機関に議会が意見を聴くこととした方がその設置目的からすれば適当であるだろうし、附属機関を議会に置いているわけでない以上、違法とまではいえないと思っている。
ただし、議会に附属機関を置くことが認められれば上記のような疑義はなくなるわけだから、議会であっても議員以外の第三者による機関に意見を求めることが適切であると認められる事例がある以上、法律で自治体の議会に附属機関を置くことができないとすることは、改められてしかるべきだろう。