出先機関の事務の一部の管轄区域を異なったものとすること

地方分権推進委員会事務局員である小泉祐一郎氏の『地域主権改革一括法の解説』は、今回の地方分権改革に伴う例規の整備に限らず、例規の立案一般にも参考になる記載がある。
ただ、少し気になる記載も幾つか見られる。例えば、前掲書P51には、都道府県から市への権限委譲に伴い、都道府県の組織内部の事務管轄の見直しが必要になるとし、その方法の一つとして次のようなことを記載されている。

A、B、C、Dと4つの出先事務所で処理していた事務を、BからAへ、CからDへと当該事務の所管を移し、当該事務に限り出先事務所の管轄区域を広域化するのである。

こうした出先機関の事務の一部の管轄区域を異なるものとすることは、実際にも行われているようであるが、地方自治法上は想定していないのではないかと私は思っている。
例えば、地方自治法を根拠とする都道府県の出先機関として、地方事務所がある(同法第155条)。この地方事務所は、知事の権限に属する事務の全般にわたって地域的に分掌するもの、すなわち「総合出先機関」であると解されているが(松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改訂版)』(P493)参照)、これによると、事務の一部だけ管轄区域を異なるものにするという解釈は出てこないように思う。これは他の出先機関も同じであり、結局ある組織の事務の一部について管轄区域を異にしようとする場合には、明文規定が必要なのではないだろうか。
このことは、一部事務組合の例が参考になると思う。つまり、一部事務事務組合の場合、共同処理する全ての事務について組織する全ての市町村に共通する必要はないことから、結果として事務によって管轄区域が異なることはあるのだが、これは地方自治法第285条で明文の規定があるから認められるのである。
もちろん、土木事務所のような法令に根拠のない出先機関を設置し、その事務の一部の管轄区域を異にすることは何ら問題はない。しかし、法定の機関の場合は慎重に扱うべきであろう。例えば地方税法上の権限は、都道府県の場合、地方自治法第155条の支庁若しくは地方事務所又は条例設置の税事務所の長に対してしか権限の委任をすることができないが(地方税法第3条の2)、当該権限を委任している地方事務所が事務によって管轄区域を異にしていた場合、上記のようにそもそも地方自治法が事務の一部の管轄区域を異にすることを想定していないと考えるのであれば、その地方事務所は地方自治法第155条の地方事務所といえるか疑義が生じることになり、その委任自体違法となってしまう可能性もあるように思われるのである。
これも自治体の組織に関する法律の規律密度が高いことによる弊害の一例だろう。そもそもこの地方事務所も戦時中のそれを引き継いだものであるが、いまさらこのような機関に法的根拠を与えておく必要もないと思うのである。