「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」と地方公務員の給与(下)

今回はこのシリーズの最後として、法附則第12条の立法者の意思がどのようなものか、国会における審議のうち、提案者の見解を見ていくことにする。

第180回国会参議院総務委員会(平成24年2月28日)
江崎孝 ……議題の国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律案第1条の趣旨と、修正案附則第12条の地方公務員の給与についてお尋ねをいたします。
地方自治体においては、法律案の趣旨にある「厳しい財政状況」とは、修正案附則の「自主的」という観点からは言うまでもなく、地方財政の問題にほかなりません。
ところで、近年の自治体財政は、バブル崩壊後の景気回復のための公共事業に係る債務償還あるいは市町村合併、そして三位一体改革、これらを主要な要因として悪化し、極めて深刻な状況にあります。そして、この要因はほぼ国の主導によるものと認識をしております。一方、財務省主計局作成の来年度予算案資料、これを見ますと、地方の長期債務残高は、平成15年度末以降この10年間、約200兆円程度で安定的に推移をしています。これは、多くの自治体が給与の独自削減を実施するなど財政健全化に関する並々ならぬ努力を約10年間にわたって行ってきたからであります。地方自治体は、財政健全化のため、既に自主的かつ適切に対応しており、その努力は大変大きなものであります。
ところで、国家公務員給与の削減に係る自治体財政及び地方公務員給与への影響に関する地方自治体側の認識は、全国市長会を始めとする団体決議あるいは平成23年11月21日の全国知事会における発言などにおいて、国の方針の押し付けは許されない、平成23年6月3日閣議決定質問主意書答弁の堅持という明確な指摘が既に明らかにされております。私も、直接地方3団体の代表者と会談した際に、国家公務員の給与削減について、地方公務員にまで求めることは納得できない、地方に波及させることはノーだと聞かされております。
そこで、このような地方財政の経過と現状を踏まえ、地方自治体において、法律案の趣旨にある厳しい財政状況に鑑みの提案者の認識を伺います。そしてまた、国家公務員給与の削減に関する自治体財政及び地方公務員給与への影響に関し、地方自治体側の認識に対する提案者の見解を明らかにしていただきたいと思います。
衆議院議員稲見哲男君) お答えいたします。
平成16年から3年間の三位一体の改革によりまして、地方へは3兆円の自主財源が移譲された一方、補助金で4.7兆円の削減、交付税臨時財政対策債で5.1兆円削減をされ、結果として地方財政を大きく圧迫するものでありました。政権交代後、平成22年度については地方交付税1兆円の増額がされ、平成23年度についても繰越財源を使って5,000億円の増額が行われ、来年度もその水準を維持する交付税は17兆4,545億円になっています。乾いた雑巾をまだ絞る状況は一定改善されていると認識しているところであります。
したがいまして、江崎委員の御指摘のとおり、昨年12月20日全国知事会での、地方公務員給与を国家公務員給与に単純に連動させるとすれば誠に遺憾、政府が掲げる地域主権改革の理念に反するものであるとの見解や、同じく11月2日の、地方公務員の給与額の決定に対し国が干渉することは地域主権の根幹にかかわる問題であり、国の方針の押し付けは許されるものではないとの中核市市長会の決議は当然だと考えております。
   (略)
江崎孝 ……そもそも、地方への影響遮断は地方自治及び地域主権という基本的理念の下で当然のことであり、にもかかわらず、なぜ法律の附則として扱うのか。民主党提案者稲見衆議院議員の改めての見解をお伺いをいたしたいと思います。
衆議院議員稲見哲男君) お答えいたします。
地方波及の問題については、最後まで3党間での合意が困難でございました。22日の法案提出直前まで協議を続けた経過がございます。附帯決議での調整が整わず、自公両党が附則で修正案を提案するとの申出がございまして、ぎりぎり、「自主的かつ」の文章を挿入することを私の方から主張し、議員立法の国会提出と23日の衆議院総務委員会開催にこぎ着けたというのが経過でございます。是非御理解をいただきたいと思います。
江崎孝 経過はよく分かりました。改めて、総務大臣の答弁、そして政府の一貫とした、そして毅然たる見解と受け止めさせていただきます。
以上の質疑を通じ、修正案附則の現実的な効力はまず想定できないものであると理解し、質疑を終えます。
   (略)
礒崎陽輔 ……この問題はもう11月の末から議論して、様々な紆余曲折を経ましてやっとまとまりました。まとまったことは良かったんだと私も思っておりますが、地方公務員の給与、今言ったことが全部事実かどうかはよう知りませんが、「地方公務員の給与については、地方公務員法及びこの法律の趣旨を踏まえ、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとする。」ことという附則12条が付いたのは非常に良かったんではないかと私は思うわけであります。
自民党の中にもいろいろ議論がありました。地方交付税をきちんと削減して地方公務員にも給与削減せよという極端な意見から、これはデフレ要因になるので一切国家公務員の給与は下げるべきでないという極端な意見もいろいろありましたけど、こういう形で固まったと。これは自主的にということで、私はそれでいいと思いますけどね。
ただ、言いたいのは、国家公務員も大変であります。10%、8%、5%、大変な削減であります。これをやるのであるのに、地方公務員が何もしなくていいなんということは私は考えられないと思いますが、そこを強制をしちゃいかぬけれども、地方公共団体で自主的に判断してほしいという趣旨の条文であると私は思いますが、石田提案者、いかがでしょうか。
衆議院議員石田真敏君) 今、礒崎委員から御指摘のあったとおりでございます。
当初、政府案が出たときの趣旨からいたしましても、厳しい財政状況に対応するということ、あるいは震災財源について言及をされているわけでありまして、そういう趣旨を踏まえまして、当初我々、自民党公明党両党で対案を提出をさせていただいたわけでありますけれども、その時点で、やはり地方においても厳しい財政状況において様々な取組をされていることは事実でございます。我々も十分認識いたしておりますけれども、しかしまだ十分でないところもあるというふうな指摘もなされていることも事実であります。
また一方、震災財源につきましては、野田総理あるいは前原民主党政調会長を始め皆さんが、やはり公的セクター全体でというような御指摘もされておられたわけでありまして、そういうことをもろもろ勘案をいたしまして、附則の中にやはり文言として入れるべきではないかと。ただし、そのときには、あくまでも地方が自主的に御判断をいただくということは我々としても十分配慮しなければならない、そういうことでこういうような附則文案になったということでございます。
礒崎陽輔 今の石田提案者の御答弁、これは稲見提案者の方も御異存ございませんね。
衆議院議員稲見哲男君) 地方の場合、先ほど申し上げましたような大震災への人的支援がある、あるいは独自に給与削減等を行っている市町村が非常にたくさんある、こういう状況があります。
大阪市も、橋下市長は就任してから2か月ですけれども、既に3パー、5パー、7パー、9パーという新たな削減案、管理職については11.5%、局長については14%と、こういうふうな削減を労使の協議で実施をすることになりました。そういう点でいいますと、必ずしも一律国家公務員と同じ要請をしていくということにならないと、こういうふうな立場であります。
   (略)
木庭健太郎 それから、この法案で、先ほども議論を聞いていて、ああ、解釈によってえらい違うなと思ったのは地方公務員の扱いの件でございまして、途中までちょっと協議もいろいろ聞いていた者の1人としては、最終的にこの地方公務員の給与の問題が附則で修正されている、衆議院でと、ああ、こういう知恵なのかなとも思いながら、その一面で、これはどうなっているかというと、地方自治体は、この法律等の趣旨を踏まえ、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとするというふうになっているわけでございますが、この真意を提案者の方に分かりやすく御説明をいただきたいと。
言わば、地方自治体というのは国に先んじてもうカットを本当にやっているところがあって、もうこれ以上ないよというような自治体も実際にある一方で、やっぱりこういう法律ができていけばこれ幸いにということにもなることもあり、言わば、地方自治体にとってみると、法律では国家公務員の給与の水準を勘案しようということは当然言われる一面、法律になっていけば強く抑えられるわけなので、その一方で独自性の問題もというような両方の板挟みに遭うのはどこかというと地方自治体でございまして、したがって、この法案の真意を是非提案者から伺っておきたいと思います。
衆議院議員(西博義君) お答え申し上げます。
様々な3党による協議の経過については、実務者の1人として木庭委員もよく御存じのとおりだと思います。
地方公務員の給与というのは本来、地方公共団体の判断によって決定される、その上で今回のこの100年に1度と言われる東日本大震災に対する公務員の給与をどういうふうにするかということが大きな課題でございました。
その結果といたしまして、既に大臣等御答弁のとおり、それぞれの地方自治体における厳しい財政事情を踏まえて様々な削減が行われております。このことにつきましては、私もちょっと今日資料をお持ちしましたけれども、2年前の22年4月1日現在でも、何らかの形で給与削減しているところがもう約60%という結果もございます。さらに、一般職の給与、本給を削減しているというところも14.5%。こういう様々な御苦労を重ねながら、地方の公務員の給与は言わば独自にそれぞれ決めてきていただいております。その時点での削減額も既に2,200億円全国で削減をされていると、こんな実態も聞いているところでございます。
その上で、この度の法案におきましては、先ほど御紹介いただきましたように、地方公務員法及びこの法律の趣旨を踏まえということで、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとすると。
地方公務員法の趣旨、これも議論が実務者の間でありましたけれども、地方公務員法第24条に、職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないと。こういう国という、国の給与ということも入っているわけでございまして、さらに、この度のこの今審議をいたしております法律、いわゆる臨時特例に関する法律も考慮をしていただいてというのが当然、地方公務員法の趣旨でございまして、そのことを踏まえてそれぞれの地方公共団体において自主的にかつ適切に対応していただきたい、これが私ども立法者の趣旨でございます。

法附則第12条の「地方公務員の給与については、地方公務員法(昭和25年法律第261号)及びこの法律の趣旨を踏まえ、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとする」という規定の立法者の意思は、地方も給与カットを行っているから一律のカットは求めないが、そのような措置をとっていない団体は、国と同様の措置をとるのが適切な対応であると考え、それを行って欲しいという意図を「自主的」という言葉で表したというところだろうか。
そして、その根拠として、地方の給与は国の職員の給与も考慮しなければいけないとしている地方公務員法第24条第3項の規定を持ち出している。しかし、国の給与は、通常は国家公務員法第64条第2項の規定により、「生計費、民間における賃金その他人事院の決定する適当な事情を考慮して」定められることになっており、地方公務員法第24条第3項は、この国家公務員法の規定を前提としていると考えられる。
したがって、自治体において、この国家公務員法の規定の趣旨とは関係なく定められた国の給与を勘案すべきと考えるのであれば、「地方公務員法(昭和25年法律第261号)及びこの法律の趣旨を踏まえ」とするのでなく、その趣旨をきちんと書くべきである。結局のところ国会は、随分と時間をかけたにもかかわらず、法律に訳の分からないことを書き、それで満足していることになる。
さらに、前回引用した総務副大臣通知は、人事委員会委員長あてにも出されている。法に沿った勧告を出せということだろうか。これも随分とずれた話である。