道路交通安全行政の在り方

最近改めて、道路交通安全行政に関して考える機会があった。行政は、道路交通安全の分野に関し事故防止の啓発活動をしているが、私は、かねてから行政の関与は過剰であるように感じていた。
もし、自動車事故を無くそうとするのであれば、例えば自動車の機能を最高でも時速40キロメートルしか出せないようにすればいいのである。それにも関わらず、そうしないのは、それによる大きな便益を得るからであろう。
では、事故を起こさないための措置であるが、自動車は誰でも運転できるものではなく、免許を必要としている。つまり、運転免許を有している者は、危険な自動車を安全に運転する技術を当然有していることになり、本人が事故を起こすことは、ある程度、その者の自己責任ということになる。
他方、道路交通法は、運転者に一定の義務を課している。それは、自動車は歩行者や同乗者など運転者以外の者に危険を及ぼすこともあるため、そうした者を守るためあろう。そのことは、次の運転者の遵守事項の規定である道路交通法第71条を見れば明らかである*1

(運転者の遵守事項)

第71条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。

(1) ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。

(2) 身体障害者用の車いすが通行しているとき、目が見えない者が第14条第1項の規定に基づく政令で定めるつえを携え、若しくは同項の規定に基づく政令で定める盲導犬を連れて通行しているとき、耳が聞こえない者若しくは同条第二項の規定に基づく政令で定める程度の身体の障害のある者が同項の規定に基づく政令で定めるつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。

(2)の2 前号に掲げるもののほか、高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。

(2)の3 児童、幼児等の乗降のため、政令で定めるところにより停車している通学通園バス(専ら小学校、幼稚園等に通う児童、幼児等を運送するために使用する自動車で政令で定めるものをいう。)の側方を通過するときは、徐行して安全を確認すること。

(3) 道路の左側部分に設けられた安全地帯の側方を通過する場合において、当該安全地帯に歩行者がいるときは、徐行すること。

(4) 乗降口のドアを閉じ、貨物の積載を確実に行う等当該車両等に乗車している者の転落又は積載している物の転落若しくは飛散を防ぐため必要な措置を講ずること。

(4)の2 車両等に積載している物が道路に転落し、又は飛散したときは、速やかに転落し、又は飛散した物を除去する等道路における危険を防止するため必要な措置を講ずること。

(4)の3 安全を確認しないで、ドアを開き、又は車両等から降りないようにし、及びその車両等に乗車している他の者がこれらの行為により交通の危険を生じさせないようにするため必要な措置を講ずること。

(5) 車両等を離れるときは、その原動機を止め、完全にブレーキをかける等当該車両等が停止の状態を保つため必要な措置を講ずること。

(5)の2 自動車又は原動機付自転車を離れるときは、その車両の装置に応じ、その車両が他人に無断で運転されることがないようにするため必要な措置を講ずること。

(5)の3 正当な理由がないのに、著しく他人に迷惑を及ぼすこととなる騒音を生じさせるような方法で、自動車若しくは原動機付自転車を急に発進させ、若しくはその速度を急激に増加させ、又は自動車若しくは原動機付自転車の原動機の動力を車輪に伝達させないで原動機の回転数を増加させないこと。

(5)の4 自動車を運転する場合において、第71条の5第1項から第3項まで若しくは第71条の6第1項若しくは第2項に規定する者又は第84条第2項に規定する仮運転免許を受けた者が表示自動車(第71条の5第1項から第3項まで、第71条の6第1項若しくは第2項又は第87条第3項に規定する標識を付けた普通自動車をいう。以下この号において同じ。)を運転しているときは、危険防止のためやむを得ない場合を除き、進行している当該表示自動車の側方に幅寄せをし、又は当該自動車が進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる表示自動車が当該自動車との間に第26条に規定する必要な距離を保つことができないこととなるときは進路を変更しないこと。

(5)の5 自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第120条第1項第11号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第120条第1項第11号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第41条第16号若しくは第17号又は第44条第11号に規定する装置であるものを除く。第120条第1項第11号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

(6) 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項

運転者が自ら事故を起こして負傷等をすることは、自分の責任と言えるが、他の運転者や歩行者等は、自らに責任がなくても事故に巻き込まれ、場合によっては命を落とすこともあり、それは理不尽なことである。
そうすると、道路交通安全に係る啓発等は、本来、運転者以外の者の安全を確保するために行われるものである。しかし、現在の道路交通安全行政は、こうしたことを意識せずに漫然と行われており、一考の余地があるように思う。
さらに、交通事故は、運転者が交通法規を遵守していれば、その大部分は防ぐことができるであろうから、それは運転免許制度の問題であり、警察部門が一義的な責任を負うべき分野になる。つまり、交通事故を減らすためには、現在は、時間の多寡はあっても、免許を取得しようとする者は、ほとんど取得できるが、免許である以上、もっと多くの者が取得できないように、免許取得の要件を厳しくするのである。そして、その更新時にも、一定の実地教習等を課してもよいのではないだろうか。
それでも交通事故は起こるであろう。その場合には、運転者の連帯責任的なものと考えて、交通事故件数に応じて、全運転者から一定の金銭を徴収することはどうだろう。もちろん、私も運転者の一人であり、その立場からは反対であるが。

*1:なお、道路交通法には、シートベルトの着用義務の規定(道路交通法第71条の3)など、運転者の安全確保のための規定も存する。しかし、シートベルトは同乗者についても着用義務があるのであって、本来は、そうした者を守るための義務と考えるべきであると思われる。