最低賃金法と公契約条例の関係に関するメモ

平成21年2月に参議院において、自治体が制定する公契約条例と最低賃金法の関係について質問主意書が提出されている。私がこれを知っているのは、おそらくネットでどなたかが取り上げていたからだと思うが、ここにメモとして残しておくことにする。

最低賃金法と公契約条例の関係に関する質問主意書(平成21年2月24日付け質問第64号、参議院議長あて尾立源幸
地方自治体において、行政サービスを外部委託する際の労働者の最低賃金などを定める「公契約条例」の制定が模索されている。しかし、最低賃金法における地域別最低賃金額を上回る最低賃金額を、公契約条例において設定する場合、公契約条例と最低賃金法のいずれが有効か定かではない。そこで以下質問する。
一 公契約条例の中で、地域別最低賃金額を上回る最低賃金額と罰則を規定する場合について
 1 最低賃金法から如何なる制約を受けるか。
 2 実際に罰則を課すことは可能か。
二 (略)
三 地方自治体が最低賃金法の趣旨を踏まえ、地域別最低賃金額を上回る独自の最低賃金額を規定した条例を制定することは可能か。
参議院議員尾立源幸君提出最低賃金法と公契約条例の関係に関する質問に対する答弁書(平成21年3月6日付け内閣参質171第64号)
一の1について 御指摘の「公契約条例」の具体的内容が必ずしも明らかでないが、当該条例において、地方公共団体の契約の相手方たる企業等の使用者は、最低賃金法(昭和34年法律第137号)第9条第1項に規定する地域別最低賃金において定める最低賃金額(以下「地域別最低賃金額」という。)を上回る賃金を労働者に支払わなくてはならないこととすることは、同法上、問題となるものではない。
一の2について お尋ねについては、具体的にどのような行為に対して罰則を課すこととなるのか必ずしも明らかでないが、一般に、地方公共団体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第14条の規定に基づき、条例を制定し、当該条例中に罰則を設けることができる。
二の1について・二の2について (略)
三について 最低賃金法上の地域別最低賃金は、労働者の労働条件の改善を図るとともに、事業の公正な競争の確保に資すること等を目的として、地域の経済状況等を踏まえつつ、一方で全国的に整合性のある額を設定するものであり、御指摘のような条例は、このような地域別最低賃金の趣旨に反するものであることから、これを制定することは、地方自治法第14条第1項の規定に違反するものであると考える。

この質問主意書に対する答弁書では、公契約条例で企業が最低賃金法における地域別最低賃金額を上回る額の賃金を労働者に支払うよう規定することは、地方自治法第14条第1項に違反するものとしている。これは、当該事項が地域における事務に当たらないということを理由にしているのだと思われるが、そもそも当該事項は私法秩序に関わる事項であり、条例で私法秩序に関わる事項を定めることができないことから、当然であろう。
これに対し、公契約条例で、当該自治体の契約の相手方である企業は、最低賃金法における地域別最低賃金額を上回る額の賃金を労働者に支払うよう規定することは、最低賃金法上問題ないとしている。これは、いわば自治体と当該企業との契約条件の問題であり、その内容が不合理なものでなければ問題ないことも当然のことであろう。ただし、当該条例に違反した場合に、罰則を課すことが可能かという質問に対し、一般論として地方自治法第14条の規定に基づき罰則を設けることができるとしているが、このような行為に関して罰則を設けることは、想定できないように思う。