条例による法令の上書き(下)

第2期地方分権改革における地方分権改革推進委員会は、事務の処理又はその方法の法令による義務付けについて条例による補正(補充・調整・差し替え)を許容することを地方自治体による法令の『上書き』を確保しようとするものと位置付け、「参酌すべき基準」は地方自治体の条例による国の法令の基準の「上書き」を許容するものとしている(平成21年6月5日付け「義務付け・枠付けの見直しに係る第3次勧告に向けた中間報告」など)。このようなやり方を条例による法令の上書きと言うかどうかはともかくとして*1地方分権改革推進委員会自体は、条例による法令の上書きを認めつつ、その採った手法は、従来の個別の法律で個々に条例による法律の上書きは認めることができるという考え方にならい、個々の法律に基づき策定されている国の基準について条例による基準の策定を認めるというものであった。
このように、現在は条例による法律の上書きを否定する見解は、一般的な立法で認めることに対してということである。そして、その理由は、国会の立法権との関係で問題があるとしているのである。ただ、理由がそのようなものであれば、国会が一般的にその上書きを認めているという意思が確認できれば良いことになり、それは多分に立法技術の問題に過ぎない。そうしたこともあってか、学説では、一般的に条例による法律の上書きを認める見解が多いと思われる。
例えば、元自治事務次官の松本英昭氏は、法令の規定の補正等を許容する法律の通則的規定の提案をされている(松本英昭「自治政策法務をサポートする自治法制のあり方」北村喜宣ほか『自治政策法務』(P91〜))。また、地方分権改革推進委員会の委員を勤められた小早川光朗教授は、立法権を分権していく方法として、一般的な立法で自治体に条例による上書き権を認める方法と、個別の法律による1つ1つの義務付け・枠付けがいいのか、許されるのかどうかについて基準を立てて、立法のあり方をコントロールしていく方法とがあり、一括法では後者の方法を採用したけれども、前者の方法を否定されているわけではない(「対談 自治立法権の確立に向けた地方分権改革 小早川光郎×北村喜宣」『都市問題(Vol.100)』(P32〜))。
実際問題として、条例による法令の上書きの定義自体明確ではないのだが*2、「法律には私たちの著作権がある」と言う中央官僚もいるようであり(前掲雑誌(P33・北村教授発言)、条例による法令の上書きの問題は、国会の立法権との関係で問題があるというよりも、国の官僚の意識の問題なのかもしれない。

*1:例えば、出石稔教授は、「『参酌すべき基準』はそのまま自治体において施設基準等として執行されるわけではない。つまり、法令基準ではないのである。仮に政省令に書かれたとしても、あくまでも参考として示されている基準を踏まえて条例化した基準を上書きと称するのには疑問がある」とされている(「義務付け・枠づけの見直しに伴う自治立法の可能性〜」『自治体法務研究(No.24)』)。

*2:例えば、人見剛教授は、条例による事務処理特例制度(地方自治法第252条の17の2)を一種の上書き条例を認めるものとしているが(「分権改革と自治体法務」『ジュリスト(No.1338)』)、これを条例による上書きとはあまり考えられていないのではないだろうか。