目的規定〜日弁連行訴法第2次改正案に関する議論から

判例時報(2159号)』に、平成24年2月13日に行われた「行政事件訴訟法第ニ次改正シンポジウム」の概要が記載されている。その中で、日本弁護士連合会による行訴法第二次改正案における目的規定についての議論に興味が引かれたので、それを取り上げる。その目的規定は、次のとおりである。

(目的等)
第1条 この法律は、行政事件訴訟の手続等を定めることにより、国民の権利利益の実行的な救済及び適法な行政活動の確保を図ることを目的とする。
2 この法律は、前項の目的に沿うように解釈され、かつ、運用されなければならない。

シンポジウムに出席されている小早川光郎教授と中川丈久教授は、この目的規定に関して否定的な意見を述べられている。小早川教授の意見は、次のとおりである。

この目的規定というのは、私は一般にはあまり熱意を感じないところです。
もちろん、かなり特定の政策目的を実現するために一定の法的な仕組みをつくってルールを設定するというような立法ですと、これは、設計された仕組みだけを条文で書いたのでは一体何のためのものかがわかりにくいということもあり、そうすると運用に際してとんでもない誤解や、違った方向に行ってしまうということもある。そこで、政策目的をはっきり掲げて、そのための仕組みなのです、立法者はそれを考えたんですよということを示すのは意味がある。最近の法律が大体目的規定を持っているというのは、そういう政策実現のための立法であるということと関係していると思います。
では行政事件訴訟法はどうかというと、さしあたりの政策を実現するための立法ではなくて、社会の、といいますか、政治、統治構造の基本を定める法律の一つであります。そして、ここでは、他の訴訟制度と別に行政訴訟制度というものがあっていいんだということを一応前提にさせていただきますけれど……それを前提としたうえで、行政事件訴訟法の立法目的は何かといえば、これは一言で言って「行政訴訟制度を定めること」であり、それで本来必要十分だろうと思うんですね。そうであれば、そんなことを第1条に書く必要はないだろうというのが、ちょっと乱暴にいいますと、私の感じであります。

中川教授の意見は、次のとおりである。

私も小早川先生と同じような考え方です。目的規定が必要なのは、いわゆる個別法の世界です。今も私、商品表示の一元化という立法作業に関わっているのですが、何のために一元化をするのかの設定を変えると、法律は全部変わってしまうんです。そういう世界では、目的規定をはっきり書いておかないと立法はできないんです。けれども、行政事件訴訟法の目的は民訴と一緒でありまして、救うべきものを救うという、言わなくてもわかっている明白なことが目的だろうと思います。

この目的規定は、主に阿部泰隆教授の意見によるものであるようだが、阿部教授はこのシンポジウムで、裁判官に対する批判的な考えから、それを是正するためにこのような規定を置くべきといった主張をしている。
例えば行訴法には第9条第2項で裁判所に法解釈のあり方を指示するような規定を置いているが、同じような発想のように思える。行訴法第9条第2項に関しては批判もあるが*1、このように各論の規定の中で規定するのであれば、あまり違和感はない。しかし、目的規定に裁判官のいわばあるべき姿を規定するということは、法律全体を通した目的としてはいかがなものかという感想を持ってしまう。
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*1:藤田宙靖行政法1(総論)(第4版改訂版』(P42〜)は、行訴法第9条第2項を異例の内容を持った規定であるとし、理論的に問題があるように思われるとしている。