審議会の会長は委員としての議決権を有するか
審議会について、会長は委員のうちから選任する旨の規定を置いた上で、「審査会の議事は、出席した委員の過半数をもって決し、可否同数のときは、会長の決するところによる」と規定した場合、会長は委員としての議決権を有することになるのだろうか。
法制意見(昭和26年11月22日法務府法意一発第105号厚生省保険局長あて法制意見第一局長回答)は、社会保険審査会について積極に解し、その理由を次のとおりとしている。
社会保険審査会、社会保険医療協議会、社会保険審査官及び社会保険審査会の設置に関する法律(以下「法」という。)第28条は、「審査会の議事は出席した委員の過半数をもつて決し、可否同数のときは会長の決するところによる。」と規定しているが、本案に関してお尋ねのような疑問が生ずるゆえんは、会長が会長であると同時に委員であることは法第26条第1項の規定により明らかであるが、会長は法第28条後段の規定によつて可否同数の際の裁決権をもつ以上、この裁決権と一般の委員としての表決権とを併せもつことは法の認めるところではなく、会長が委員としての議決権を有する余地はないのではないかという点にあるものと思われる。
しかしながら、会長がこのような裁決権を与えられているのは、この種の合議制機関における議事の議決方法に関する一般の立法例にならつたものと考えられるが、会長の右の裁決権は、会議における多数決の原則に対する例外措置として特に会長に賦与された決定権であつて、この裁決権の性質を一般の委員の表決権のそれと全く同視することはできないのである。従つて、会長が右の裁決権と委員としての表決権を併せもつことをもつて、法の前提する多数決の原則の法理にもとると考えるのはあやまりであるとしなければならない。すなわち、会長の委員としての議決権は、これを否定する明文の規定(例えば、地方自治法第190条第2項、労働者災害補償保険審査官及び同審査会規程第30条第3項、国家公務員共済組合法第75条第1項等参照)のない限り、これを肯定するのが相当である。実質的にみても、このような公益を代表する委員から選ばれる会長に対してもなお委員としての表決権を認めることは、公益を代表する委員の数を6名とし、健康保険、船員保険又は厚生年金保険の被保険者の利益を代表する委員及び被保険者を使用する事業主及び船舶所有者の利益を代表する委員の数とそれぞれ同数たらしめ(法第24条第1項参照)、もつて審査会の決定の公平を期待している法の趣旨にも合致するものといいうるであろう。
以上に述べた理由により、審査会の会長は、審査会の議事について、可否同数の際の裁決権はもちろん、一般の委員としての議決権も併せ有するものと解する。
あまり想定もしないであろうが、仮に附属機関の長に委員としての議決権を与えたくないのであれば、否定する規定を置くべきということである。