行政委員会における持ち回り決議の可否

行政委員会の決議を持ち回りで行うことができるだろうか。
国家公安委員会について、次のような国会における内閣法制局の答弁がある。

<第147回国会衆議院決算行政監視委員会(平成12年3月13日)>
保坂展人委員 ……今、警察法の話も出ていましたけれども、国家公安委員会の運営規則、これは何度眺めてみても、私どもクエスチョンタイムで土井党首もやりましたけれども、「国家公安委員会は、会議の議決により、その権限を行う。」「会議は、定例会議及び臨時会議とする。」こうあるわけで、何度読んでみても、持ち回りが根拠となる条文がないのですが、長官としてはどのような御見解でしょうか。
津野修政府特別補佐人内閣法制局長官) お答えします。
持ち回りの件でございますけれども、御承知のように、警察法におきまして、国家公安委員会は、委員長及び三人以上の委員が出席しなければ会議を開いて議決をすることができないというようなことが規定されているわけでございます。
ところで、他方、一般の合議体の議決方式といたしまして、例外的に、いわゆる持ち回り方式という議決があることは一般に御承知のとおりだと思います。ただ、この持ち回り方式といいますものはあくまで例外的なものでありまして、通常の議決方式としては、法令等で明文の規定が置かれていないのが通例であろうというふうに考えているわけでございます。
ところで、国家公安委員会につきましても、例えば、これはたびたび国家公安委員長の方からも御答弁いただいておりますけれども、委員等の間で既に実質的な合意が形成されておりまして、かつ緊急を要するといったような場合においては、会議を開くことなく持ち回り方式により議決を得ることとしても、先ほど述べましたような法の趣旨に反するというようなことはないから、そのことによって当該議決及びこれに基づく処分の効力が直ちに否定されるというようなことはないであろうというふうに考えております。

上記の答弁で触れている国家公安委員会に関する会議の規定は、次の警察法第11条の規定である。

(会議)
第11条 国家公安委員会は、委員長が招集する。国家公安委員会は、委員長及び3人以上の委員の出席がなければ会議を開き、議決をすることができない。
2 国家公安委員会の議事は、出席委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
3 委員長に故障がある場合においては、第6条第3項に規定する委員長を代理する者は、前2項に規定する委員長の職務を行うものとし、これらの項に規定する会議又は議事の定足数の計算については、なお委員であるものとする。

他の行政委員会についても同様の規定が置かれているところであり、例えば人事委員会については、次の地方公務員法第11条の規定がそれである。

(人事委員会又は公平委員会の議事)
第11条 人事委員会又は公平委員会は、3人の委員が出席しなければ会議を開くことができない。
2 人事委員会又は公平委員会は、会議を開かなければ公務の運営又は職員の福祉若しくは利益の保護に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、前項の規定にかかわらず、2人の委員が出席すれば会議を開くことができる。
3 人事委員会又は公平委員会の議事は、出席委員の過半数で決する。
4 人事委員会又は公平委員会の議事は、議事録として記録して置かなければならない。
5  前各項に定めるものを除くほか、人事委員会又は公平委員会の議事に関し必要な事項は、人事委員会又は公平委員会が定める。

この人事委員会の決議を持ち回りにより行うことができるかについて、次のとおり否定する行政実例がある。

人事委員会の会議で決定すべき事項を、会議を招集することなくいわゆる持ち回りによつて決定することはできないものと解する(昭34.3.27自丁公発第40号・広島県人事委員会事務局長あて公務員課長回答)。

両者を統一的に解釈しようとすると、上記の内閣法制局長官の答弁における「委員等の間で既に実質的な合意が形成されており、かつ、緊急を要するといったような場合」ということが重要な要件になってくるだろう。ただし、そこまで求めるのであれば、持ち回り決議も何もないように思える。