下位例規への委任規定〜最高裁平成25年1月11日判決

既にブログ等で取り上げられた方もおられるが、第1類医薬品及び第2類医薬品のインターネットを通じた販売を禁止する省令の規定を法の委任の範囲を超えたものとして違法とした最高裁判決を取り上げる。
問題となった省令の規定は、次の薬事法施行規則の規定である。

(薬剤師又は登録販売者による医薬品の販売等)
第159条の14 薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第36条の5の規定により、第1類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして、当該薬局若しくは店舗又は当該区域における医薬品を配置する場所(医薬品を配置する居宅その他の場所をいう。以下この条及び第159条の18において準用する次条から第159条の17までにおいて同じ。)(以下「当該薬局等」という。)において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。
2 薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第36条の5の規定により、第二類医薬品又は第三類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして、当該薬局等において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。ただし、薬局開設者又は店舗販売業者が第三類医薬品を販売し、又は授与する場合であつて、郵便等販売を行う場合は、この限りでない。
一般用医薬品に係る情報提供の方法等)
第159条の15 薬局開設者又は店舗販売業者は、法第36条の6第1項の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に行わせなければならない。
(1) 当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所(薬局等構造設備規則第1条第1項第10号若しくは第2条第9号に規定する情報を提供するための設備がある場所又は同令第1条第1項第4号若しくは第2条第4号に規定する医薬品を通常陳列し、若しくは交付する場所をいう。次条及び第159条の17において同じ。)において、対面で行わせること。
(2) (略)
2 (略)
第159条の17 薬局開設者又は店舗販売業者は、法第36条の6第3項の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に行わせなければならない。
(1) 第1類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に対面で行わせること。
(2) 第2類医薬品又は第3類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に対面で行わせること。
(3) (略)

この薬事法施行規則の根拠となっている薬事法の規定は、次のとおりである。

一般用医薬品の販売に従事する者)
第36条の5 薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、一般用医薬品につき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に販売させ、又は授与させなければならない。
(1) 第1類医薬品 薬剤師
(2) 第2類医薬品及び第三類医薬品 薬剤師又は登録販売者
(情報提供等)
第36条の6 薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第1類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師をして、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
2 薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第2類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。
3 薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
4 第一項の規定は、医薬品を購入し、又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があつた場合には、適用しない。
5 (略)

判決の内容は、次のとおりである。

……そこで検討するに,上記事実関係等によれば,新薬事法成立の前後を通じてインターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していた上,郵便等販売を広範に制限することに反対する意見は一般の消費者のみならず専門家・有識者等の間にも少なからず見られ,また,政府部内においてすら,一般用医薬品の販売又は授与の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確立されておらず,薬剤師が配置されていない事実に直接起因する一般用医薬品の副作用等による事故も報告されていないとの認識を前提に,消費者の利便性の見地からも,一般用医薬品の販売又は授与の方法を店舗における対面によるものに限定すべき理由には乏しいとの趣旨の見解が根強く存在していたものといえる。しかも,憲法22条1項による保障は,狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照),旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。
しかるところ,新施行規則による規制は,……一般用医薬品の過半を占める第1類医薬品及び第2類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第1類医薬品及び第2類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第1類医薬品及び第2類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。

この判決は、行政に対しかなり厳しい判断をしたというのが私の正直な感想である。
薬事法第36条の5は、一般用医薬品の販売を行う者を定め、同法第36条の6は、この者が厚生労働省令で定めるところにより必要な情報提供等を行わなければならないとしている。したがって、この規定は、情報提供等の方法等を省令に委任したと解することができるのであって、これを受けて薬事法施行規則は、その方法を対面で行うこととしたと規定しているのであり、法の授権の範囲を超えているとは明確には言い難いのではないだろうか。
それにもかかわらず、この判決が省令の規定を違法と判断したのは、インターネットを通じた販売を禁止することは職業選択の自由等を過度に規制することになるため、そのような過度の規制をすることが問題だということになる。
この判決を受けて、厚生労働省はその規制を行うために法改正を行うといった報道もあるが、そのようになった場合に裁判所がどのような判断をするのか気になるところである。
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