条例目的と立法事実

弁護士会は、児童ポルノの規制について条例の必要性を裏付ける立法事実について、(1)刑罰による児童ポルノの規制は法律によるべきで、条例による刑罰規制は地域的特性に応じた必要性がある場合に行われるべき、(2)しかし規制対象行為が他の地域ではなく特に当該自治体で増えているというデータはないから立法事実がないといった批判をしているようである(田中孝男「児童ポルノの規制等と条例」『自治体法務NAVI Vol.53』参照)。
この問題は、表現の自由の規制という憲法上の問題もあるのだが、ここではその点は置いておいて、条例による規制になじむのかという点について触れることにする。
弁護士会の主張は、上記のとおり、条例による規制は、地域的特性に応じた必要性がある場合に行われるべきというものである。そして、上記論文で田中准教授は、次のように述べているが、条例による規制は、その地域で特別な規制が必要であることを求めているように思われる。

現在の諸制度や行政機関の取組だけでは、地域の目的に照らしてまだ不十分であり、独自措置が必要ということを裏付ける事実が必要になる。
基本的な犯罪統計などの全国レベルの情報収集に加え、例えば、地域における変質者の出現情報その他の各種通報につき統計を独自に収集する必要がある。こうした地域独自に収集した情報が、条例の必要性をいったんは正当化する事実になるだろう。逆にいえば、そうした独自情報がほとんどないのに、その地域で特別な規制が必要であると合理的に説明することは難しいと考えられる。

このような考え方は、一般的な考え方であるとは思う。そして、それは、地域性ということをどのように考えるかということになるのだろうが、ともすると、ある事項について条例で独自の規制を行うためには、それが他の地域と比べて特に問題となっていなければいけないのだというように、条例で規制できる範囲をかなり限定的に捉える考え方につながってしまっている面もあるように感じる。
仮に地域性が考えられない全国的な問題は、常に法律で適正な規制がなされているという前提に立てば、そのような考え方でも問題はないのだが、実際は、とてもそのように言うことはできない。そうすると、条例による規制は、その地域で問題になっていることは必要であるとしても、ことさら他の地域と比較してどうこう言う必要はないのではないかと感じている。
もちろん、そのような必要性が認められたとしても、条例という強制力を伴った規制が必要なのかどうかという点は、十分考慮する必要があることは当然である。