選挙における戸別訪問禁止の立法事実

7月21日に投票が行われる参議院選挙は、インターネット選挙運動の解禁という選挙運動の方法が変化した選挙である。
選挙運動と言うと詳細な規制がなされており、ここまで規制する必要があるのかと批判されているものもある。その一つが戸別訪問の禁止である。私自身もその必要性には疑問を感じているところである。
ところで、検事出身で、参議院議員も務められた故佐藤道夫氏は、その著書に次のように記載されている。

隣人がだれかも知らない大都会に住む人には、想像もつかないことだが、地方によっては、隣組型相互扶助連帯組織が根強く生き残っていて、それが選挙戦で集票マシンとしての威力を発揮する。
そんな汚いカネ(買収として渡された金のこと)*1をなぜ断れないかと思うのは、都会的な発想である。また、カネをもらっても投票さえしなければという割り切った考えも、地方ではあまり通用しない。
そんな義理人情に反することはできないという思いが強いからこそ、いつの時代になっても、結局はカネがものをいう。「義理人情」といえば聞こえはいいが、一皮剥いでみれば、なんのことはない、すべてに「カネ」が支配する社会でもある。
投票を頼むのにはお礼のカネがいる。頼まれてもタダではイヤだ、というのが案外の本心であり、かくして選挙のたびにカネが流れる。それを断る者は、その社会では暮らしていけない。
……投票を頼みにいくのに手ぶらではいけない、頼みにきたのに何も持ってこなかった、A派はきたがB派はこない等々と思う人が多い地方では、戸別訪問を自由化して、いったい、いかなることになるのか、興味は尽きない。(『法の涙 検事調書の余白2』(P94〜))

この著書は、1995年のものであるため、現在は、また社会状況が変わってきてもいるだろう。
しかし、都会と地方では実情が異なるので、一面的な物の見方をすべきではないとする上記の記述は、立法事実を考える場合には諸々の角度から見なければいけないということを感じさせてくれる。

*1:管理人注記