自治体の組織と条例(下)

今回は、自治体の組織の条例設置に関し幾つか出されている土木事務所等の行政実例を取り上げる。
以前(2007年5月5日付け記事「自治体の組織(5)〜各執行機関(特に長)の組織・?出先機関(その2)」)、行政実例では条例設置を要しないこととされている土木事務所について、その業務内容からすると、本来は、条例設置を要する行政機関と考えるべきであろうが、地方自治法第153条第1項の規定により職員に対する事務の委任を一般的に認める以上、条例で設置しなくても違法とまではいえないのではないかと記載した。その行政実例は、次のとおりである。

・貴県における土木事務所及び土地改良出張所は、第156条第1項の行政機関ではなく、第158条第5項(現行法では第6項)の分課と解する(昭和29.5.12自丁行発第63号宮城県議会事務局長宛行政課長回答)。
・御照会の土木出張所は、第158条第3項(現行法では第6項)の部局の下にあつて、知事の権限に属する当該部局所管の特定事務を分掌させるために設けるものであつて、条例による必要はない。なお、第155条第1項は、支庁、地方事務所のごとき一般行政庁は、条例でこれを設けることができることを規定したものであつて、御照会のごとき指定部局所管の特定の事務のみを分掌させる土木出張所は、一般行政庁に該当するものではないから、本条に規定する必要はないものである。しかし、その分掌する事務の内容は、知事の権限に属する事務の一環をなすものであり、かつ、地方事務所の運営の妙味は総合行政の成果の発揮にあるものであるから、地方事務所に土木関係の一分課を設けて、他の部局所管の特定事務とともに、総合所管させていることは、当該地方公共団体の実情に応じ、かつ、自主的に実施されているものであり、法律上も実際上も何らさしつかえないものである(昭和23.5.24自発第281号建設院総務局長宛自治課長回答)。

次のような行政実例(昭和23.6.19自発第443号山口県知事宛自治課長回答)もある。

問1 現在地方事務所において処理しつつある耕地関係事務を分離して単独の耕地事務所を設置するのは、第155条の規定の趣旨から適当でないと存ぜられるがどうか。
 2 現在設置してある土木出張所において土木行政事務をとることは、同じく同規定から適当でないと存ぜられるがどうか。
答1 第158条第3項(現行法では第6項)の分課として設けるならば違法ではないが、適当でないと考えられる。
 2 お見込のとおり。

これらの行政実例全体を見ると、必ずしも論理一環としているとは言えないが、条例設置の必要はないとしているものと考えてよいであろう。そして、その考え方としては、一応前回記載した基準によって判断しているように思われる。
しかし、その考え方は、自治体がどのような組織にどのような事務を分掌すべきかについて国がある程度所与の前提としているような感じを受ける。このことは、例えば保健所は、国の出先機関的な性格を有していたと認識されていたこと(北村喜宣『ポスト分権改革の条例法務―自治体現場は変わったか―』(P237)参照)からも窺えるところである。
しかし、現在の自治体の組織は、多様化してきており、また必ずしも国が想定している事務を分掌しているとはいえないと思われる。そうすると、行政実例はあまり意味がないことになってしまう。
結局のところ、自治体の組織法制はその実態と齟齬したものとなってしまっているようである。自治体の組織についてどのようなものを条例事項とするかについては、法制度上整理する必要があるのだろう。