「準用」する理由

平成25年法律第72号により「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が改正され、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手(以下「生活の本拠を共にする交際相手」という。)からの暴力及びその被害者について、次のとおり同法の規定を準用する規定が設けられた。

第5章の2 補則
(この法律の準用)
第28条の2 第2条及び第1章の2から前章までの規定は、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手からの暴力(当該関係にある相手からの身体に対する暴力等をいい、当該関係にある相手からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が当該関係を解消した場合にあっては、当該関係にあった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含む。)及び当該暴力を受けた者について準用する。この場合において、これらの規定中「配偶者からの暴力」とあるのは「第28条の2に規定する関係にある相手からの暴力」と読み替えるほか、次の表の上欄に掲げる規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。
 (表略)

生活の本拠を共にする交際相手からの暴力及びその被害者について、同法の規定を準用することとした理由を、立法担当者は次のように説明している。

配偶者暴力防止法において配偶者からの暴力及びその被害者について特別の施策が講じられてきた経緯及び理由に鑑みると、「配偶者」と「生活の本拠を共にする交際相手」とは、婚姻意思の有無及び婚姻届出の有無という点で被害者と加害者との関係性の程度が異なるため、「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」を配偶者暴力防止法上「配偶者からの暴力」と全く同一のものとして位置付けることは難しいと考えられる。
しかし、前述のように、その共同生活の態様の類似性から、「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」については配偶者暴力防止法の対象とする素地があり、かつ、ストーカー行為等の規制等に関する法律や刑法による救済が困難な状況において、配偶者からの暴力の被害者と同様の救済の必要性が認められることから、「準用」という形で配偶者暴力防止法の対象とすることとしたものである(参議院法制局第五部第一課 永野豊太郎「『生活の本拠を共にする交際相手からの暴力及びその被害者』も配偶者暴力防止法の対象に 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の一部を改正する法律」『時の法令(NO.1942)』(P46〜))。

「準用」というのは、ある事項に関する規定を、それに類似するが異なる事項について必要な変更を加えた上で当てはめることである(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P193)参照)。そして、「配偶者」と「生活の本拠を共にする交際相手」は異なる事項であるから、準用したということである。
しかし、「準用」というのは、あくまでも上記のような取扱いをするための立法技術に過ぎないのであって、本件のように、準用する規定は、第2条の定義規定を除く全ての規定となっており、これらについて異なる取扱いをしている部分は何もないことを考えると、あえて準用とする必要があったのか疑問を感じる。さらに、この規定を補則としたことも、軽い扱いをしているような印象を受ける。
本件の場合、普通に「配偶者」を「配偶者等」として、その中に「生活の本拠を共にする交際相手」も含めるような改正にすればよかったのではないだろうか。