「みだりに」

以前(2010年3月12日付け記事「検察協議」)、検察協議において「みだりに」という用語について適切でないとの指摘を受けたことがあると記載したことがある。
「みだりに」とは、社会通念上正当な理由があると認められない場合をいうものとされている(吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版)』(P716)参照)。
この用語は、田島信威ほか『最新法令用語の基礎知識(3訂版)』には、「主として罰則規定・禁止規定の中で使われ、違法性を表すために用いられる」(P62)と記載されている。また、「漢語調で分かりにくいと考えられているためか、これに代えて『正当な理由がなくて』とか『正当な理由がないのに』が用いられることが多くなった」(P63)という記載もされているが、立法担当者の書籍等で格別否定的な記載をしているものは見当たらない。
しかし、伊藤栄樹『新おかしな条例』において、公刊当時、東京地方検察庁検事であった松浦恂氏は、次のように記載している。

……立法例としても、軽犯罪法(昭和23年法律第39号)第1条第7号、第27号、第33号、道路交通法昭和35年法律第105号)第76条、第115条、港則法(昭和23年法律第174号)第24条、第28条等にみられるところであるが、社会通念上正当な理由があると認め得るか否かの判断を一般的に下すことは必ずしも容易でなく、どうしてもあいまいな点が残るために、罰則に用いるのは、あまり好ましくない用語である。
例えば、道路交通法第115条の信号機を操作する行為、港則法第24条の港内で廃物を棄てる行為、軽犯罪法第1条第7号の水路に船を放置する行為のように、処罰の対象とされる行為自体がごく例外的にしか正当化されない性質のものであるときは、ほとんど問題にならないが、社会生活上よく見受けられる行為であつて、正当視される場合が多い性質のものである場合には、どこまでが処罰の対象になるのかの限界が不明確になるからである。

上記の指摘を受けた当時は、立法例があるのになぜこのような指摘を行うのか不思議に思ったし、結局は修正をせずに了承を得たのであるが、法律の運用・解釈をする立場からすると、この指摘はもっともなことだったのかもしれない。