公契約条例に罰則を設けることについて

washitaさん経由

全国初の罰則付き - 県公契約条例
県は、国や地方自治体が公共事業を民間業者に委託する際に結ぶ「公契約」で、受注者に対して従業員への最低賃金以上の支払いなどを求める罰則付きの「公契約条例」を、全国の都道府県で初めて制定する。賃金の支払い状況を報告しなかったり、虚偽の報告をした場合の過料徴収も盛り込む。県議会の6月定例会(6月23日開会予定)に制定案を提出する構えで、可決されれば、来年4月1日に施行される。
公契約条例について県は、平成23年6月に部局横断的な検討チームを設置。受注者からの報告や罰則措置についても実現性を検討してきた…
2014年5月27日 奈良新聞

私は、いわゆる公契約条例に罰則である過料の規定を設けることには違和感がある。
上記記事の条例案に関する骨子案によると、県が発注する建設工事の請負契約、県が業務を委託する契約及び県が締結する公の施設の管理に関する協定*1を「公契約」、そのうち規則で定める種類及び規模のものを「特定公契約」、県と特定公契約を締結した者を「特定受注者」とし、特定受注者に関し、次のような事項を規定している。
(1) 特定受注者に対し、次の事項の遵守を求め、特定受注者は、その状況を知事に報告しなければならない。

  • 最低賃金以上の賃金の支払いを行うこと。
  • 健康保険、厚生年金保険、雇用保険に係る被保険者の資格取得に係る届出を行うこと。
  • 労災保険に係る事業者の届出を行うこと。

(2) 知事は、(1)の報告に疑義が生じたときなどに、特定受注者に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができ、特定受注者がその報告等を行わなかった場合は、職員をその事業所等に立ち入らせ、必要な物件を調査させ、又は質問させることができる。
(3) 知事は、(2)の報告又は立入調査により、特定受注者が(1)の事項を遵守していないと認めるときは、特定受注者にその旨通知し、特定受注者は、必要な措置を講じて、その内容を知事に報告しなければならない。
(4) 特定受注者が次のいずれかに該当するときは、5万円以下の過料に処することとする。

  • (1)の報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
  • (2)の立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたとき。
  • (3)の報告をせず、虚偽の報告をし、又は当該報告の内容が必要な対応を講じていないと認められるとき。

公契約といっても、自治体が私人と対等の立場で締結する私法上の契約であることには変わりがない(国の契約について、碓井光明『公共契約法精義』(P3)参照)。そうすると、この条例案は、契約違反という私法上の行為に対し過料という罰則を科すことになる。
もちろん、私法上の行為に対し罰則を科すことができないというものではないのだが、公契約条例に罰則を設けるということは、契約の当事者である自治体が、その契約の枠内での措置にとどまらず、罰則まで科そうというものであり、行き過ぎた措置ではないかと感じる。
仮に、公契約条例に罰則を設けようとするのであれば、その理屈は、公契約は一般住民の生活に大きく関わるものであり、その履行を適切に行わない場合には一般住民の生活に大きな影響を及ぼすからということになるのではないだろうか。しかし、この骨子案で過料の対象としている行為は、受注者の従業員に対し最低賃金以上の賃金の支払をしないといったことであり、それ自体一般住民の生活に直接関わるというものではないのである。

*1:公契約の中に公の施設の管理に関する協定を含めることは、立法技術上難があるのではないかと思っているが、今回は、その点は触れないこととする。