行政不服審査における議論から地方分権を考える

介護保険法において、要介護認定等の処分を市町村が行い、それに対する不服審査は都道府県に置かれる介護保険審査会が処理するというスキームが採られているのは、保険事務の引き受けをしぶる市町村の負担を軽減するという観点等からであるということについて、櫻井敬子教授は、その著書『行政救済法のエッセンス』(P86)において次のように記載している。

教科書的な地方分権論からすると、介護保険法の仕組みは基礎的な地方公共団体である市区町村の判断を都道府県の機関が覆す、好ましからざる制度なのですが、等身大の市町村の行動原理は全く別次元にあるようです。つまり、基本的には仕事を押し付けられたくないというのが地方の本音としてあり、個人の権利救済のために自己の行った処分に対する不服審査を襟を正して自らきっちり処理することが大切であるといった問題意識は、残念ながらほとんどみられないというのが現実です。そこには法的リテラシーを備えた、責任感のある地方公共団体という姿を見出すことは困難です。

前掲書では、上記の記述の前に、行政不服審査法の改正に当たり、義務付け採決・差止め採決を導入するに当たり、これらが国等から関与を受けるものであることから、全国知事会等から地方の自主性を害するとして反対する意見が述べられたことが記載されており、そのことを皮肉っているようにも感じる。
現実問題としては、自治体が行っている事務は、法定事務がその多くの部分を占めているのであり、それをやらないことが無責任と批判されても、それは筋が違うのではないかと言いたくもなる。
しかし、自治体の側の発言も、自分に都合のいいことしか言っていないと思われても仕方のない面もある。反省すべきところは、反省しなければいけないのだろう。