行政上の義務履行を司法手続で求めることに関するメモ

須藤陽子『行政強制と行政調査』(P5〜)によると、行政執行法を廃止し、行政代執行法を制定する過程において、法制局が、各省と意見交換を行い、それを踏まえてまとめた、昭和23年1月22日付け「公法上の義務の履行強制制度の存廃(行政執行法第五條)」という文書があり、そこには、次のような記載がある。

公法上の義務履行について一般的には、特に制度を設けないで民事訴訟法の強制執行方法に委ねることができるかどうかについて、一応検討を加える必要がある。民事訴訟は、本来権利保護の手続であつて公法上の権力を保護の対象とすることは、これを予想していない。行政事件訴訟特例法が所謂行政事件について民事裁判所に訴え出ることを認めているのも、行政庁の違法な処分によつて権利を害せられたとする者がその処分をした行政庁を被告として訴え出ることによつて、その者に権利の保護を受けさせようとする趣旨に外ならないのであつて、行政庁が自ら裁判所に訴え出ることによつて、その権力の行使を確保せんとする趣旨を含んではいない。
行政庁が自己の有する行政権についてその保護を司法裁判所に求めねばならぬとすることは行政権に対する司法権の全面的優位を認めることになり所謂三権分立の原則に抵触するのではないかという疑問がある。

行政上の義務履行を求める訴訟を法律上の争訟に当たらないものとして却下した最高裁平成14年7月9日判決(いわゆる宝塚市パチンコ店規制条例事件)は、批判が多い判決であるが、かつては、そうした見解が当然だったのかもしれない。