マイナンバー法に基づく条例の立案の考え方

今回は、前回取り上げた水町弁護士のブログに記載されている次の問題そのものについて、少し触れてみることにします。

番号制度対応のために、地方公共団体では番号法第31条に基づき条例改正が必要となりますが、個人情報保護条例を改正する形にすべきでしょうか。それとも番号条例を新設すべきでしょうか。

方法とすればどちらもありなのだが、この問題は、水町弁護士の御著書でもある『自治体職員のための番号法解説(実務編)』で触れられているように、個人情報保護条例における「個人情報」よりも、マイナンバー法における「個人情報」の方が概念が広い場合に、慎重に検討する必要がある。
個人情報保護条例の一部改正とするのであれば、「個人情報保護条例」という以上、条例の「個人情報」の中にマイナンバー法の「個人情報」を全て取り込むよう、条例の「個人情報」の定義を改正する必要がある*1。その場合の「個人情報」の書き方について、前掲書に取り上げられている神奈川県の条例を例として考えてみる。マイナンバー法の「個人情報」の定義と神奈川県の条例のそれは、次のとおりである。

神奈川県の条例(第2条第1号)
生存する個人に関する情報(個人が営む事業に関して記録された情報に含まれる当該個人に関する情報及び法人その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものをいう。
マイナンバー法(第2条第3項)
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

マイナンバー法第31条の規定に基づき講ずべき措置は、マイナンバー法に基づく「特定個人情報」に関してである。「特定個人情報」の定義は、マイナンバー法第2条第8項に次のように規定されている。

この法律において「特定個人情報」とは、個人番号(個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号であって、住民票コード以外のものを含む。第7条第1項及び第2項、第8条並びに第67条並びに附則第3条第1項から第3項まで及び第5項を除き、以下同じ。)をその内容に含む個人情報をいう。

そうすると、神奈川県の条例で「個人情報」から除かれている「個人が営む事業に関して記録された情報に含まれる当該個人に関する情報及び法人その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関する情報」について、「特定個人情報」に関するものに限り、その範囲に含めればよいことになるので、必要最小限の書き方としては、その定義規定に次の太字の部分を追加してやればいいことになる。

生存する個人に関する情報(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)第2条第8項に規定する個人番号をその内容に含む情報以外の情報にあっては、個人が営む事業に関して記録された情報に含まれる当該個人に関する情報及び法人その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものをいう。

これに対し、条例を新設するのであれば、必ずしも個人情報保護条例の「個人情報」の中に、マイナンバー法の「個人情報」を取り込む必要はないことになる。個人情報保護条例の「個人情報」の中に、マイナンバー法の「個人情報」を取り込まないのであれば、個人情報保護条例の「個人情報」から「特定個人情報」を除外した上で、新設条例には、個人情報保護条例の規定のうち必要なものは全て書く必要があるので*2、それを良しと考えるかどうかである。
新設条例を、個人情報保護条例の特例とするのであれば、上記の個人情報保護条例の一部改正の場合と同様に個人情報保護条例の「個人情報」の定義を改正するべきだろうが、その特例を定めることとなる条数が少ないのであれば、新設条例とするメリットは少ないことになる。

*1:そうした改正を行わないのであれば、条例の題名を、例えば「個人情報等保護条例」とすべきである。

*2:個人情報保護条例の読替えで対応するのであれば、適用読替えでなく、準用読替えということになる。