防災ヘリコプターの運行費用を利用者に求めることの可否(その4)

前回取り上げたサイトで取り上げられている全国山岳遭難対策協議会における消防庁防災情報室課長補佐の発言の中で、次の事項も防災ヘリコプターにおける有料化の問題として挙げられている。

○ 消防組織法上の問題
8条で消防の費用は市町村が負担、つまり無料と言っている。火事や救急車を呼んでも、費用を請求することはない。山でも同様。山の問題とは別に、消防の任務に該当しない活動に、受益者から応分の負担をとることは可能ではないかという議論は昔からあったが、消防ヘリは市町村からの支援要請に基づいて出動するわけであり、要救助者から金をとるのが筋として正しいのかどうかよく分からない。
○ 警察や他県との調整
警察は有料化は考えていないと言っている。消防だけが有料化すると誰も消防に助けを求めなくなるのは当然。尾根のどちらに落ちればただというのは、やはりこれはおかしい。消防だけを有料化することはありえない。
○ 対応する範囲が難しい
料金を徴収するべき山岳遭難がどういうものなのかよく分からない。「有料化」の背景には「安易な救助要請の抑止」があるのだが、やむをえない事故、山小屋や林業関係者の事故、地元の山菜採りまで定義づけていいのか。範囲が難しい。長野は最初一律にヘリが出れば金を取る方向で考えていたようだが、議論は止まっているようだ。地域を指定して、その中なら山岳遭難とする考えもあるかもしれないが、60万取られると分かっていたら、その地域から何が何でも外れてから救助要請することもあるし、実費弁償(ガソリン代だけの請求)なら、逆にタクシー代わりに使われてしまう恐れもある。海のこともある。
○ 費用徴収コスト
消防ヘリは市町村からの要請に基づいて出動する訳で、費用を請求するなら市町村がやるのが筋だが、事務負担が増える。職員も減っており、事務が増加することが山岳遭難の抑制に効果的なのか。「料金を払えばいいんだろう」と、事故にたいする反省が薄くなってしまう。消防隊員は使命感でやっているので金を取るということに賛成しない。(士気に)悪影響を及ぼすことも考えられる。有料化については財政面からの話が多いが、消防隊員や航空隊員には、有料化に賛成するような雰囲気はない。

これらの事項は、実務上の問題、あるいは人によって当然違った考え方もあり得るといったものであるが、消防組織法上の問題として挙げられている事項は、法的に可能かどうかという問題を含むので、これについてのみ若干触れておく。
消防組織法については、私は十分承知していないのであるが、実際にヘリを運航しているのは都道府県であり、その根拠は、次の同法第8条の規定ではないだろうか。

都道府県の航空消防隊)
第30条 前条に規定するもののほか、都道府県は、その区域内の市町村の長の要請に応じ、航空機を用いて、当該市町村の消防を支援することができる。
2 都道府県知事及び市町村長は、前項の規定に基づく市町村の消防の支援に関して協定することができる。
3 都道府県知事は、第1項の規定に基づく市町村の消防の支援のため、都道府県の規則で定めるところにより、航空消防隊を設けるものとする。

都道府県がヘリの運行をするに当たりその経費を市町村から負担しているのであればともかく、第8条を持ち出してその費用は無料とすべきというのは、筋が違うのではないかと感じる。