新幹線鉄道騒音に係る環境基準の類型を当てはめる地域の指定を知事の権限としていることについて

環境基準とは、人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として、終局的に、大気、水、土壌、騒音をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたものである(環境省ホームページ参照)。
環境基準について規定しているのは、次の環境基本法第16条の規定である。

第16条 政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
2 前項の基準が、2以上の類型を設け、かつ、それぞれの類型を当てはめる地域又は水域を指定すべきものとして定められる場合には、その地域又は水域の指定に関する事務は、次の各号に掲げる地域又は水域の区分に応じ、当該各号に定める者が行うものとする。
(1) 2以上の都道府県の区域にわたる地域又は水域であって政令で定めるもの 政府
(2) 前号に掲げる地域又は水域以外の地域又は水域 次のイ又はロに掲げる地域又は水域の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 騒音に係る基準(航空機の騒音に係る基準及び新幹線鉄道の列車の騒音に係る基準を除く。)の類型を当てはめる地域であって市に属するもの その地域が属する市の長
ロ イに掲げる地域以外の地域又は水域 その地域又は水域が属する都道府県の知事
3・4 (略)

上記のとおり、基準そのものは政府が定めることとしているが(同条第1項)、類型を当てはめる地域の指定が必要な場合は政府、都道府県知事又は市長が行うこととしており(同条第2項)、新幹線鉄道騒音に係る環境基準の類型を当てはめる地域の指定は都道府県知事が行うこととされている(同項第2号ロ)。なお、都道府県知事又は市長が行うこの事務は、法定受託事務となっている(同法第40条の2)。
そして、新幹線鉄道騒音に係る環境基準は、「新幹線騒音に係る環境基準について」(昭和50年環境庁告示第46号)により定められている。それによると、1類型(70デシベル以下)と2類型(75デシベル以下)の区分が設けられており、1類型を当てはめる地域は主として住居の用に供される地域とし、2類型を当てはめる地域は商工業の用に供される地域等1類型以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域とされている。
これらの類型を当てはめる地域の指定を都道府県知事が行うに当たっては、その処理基準(地方自治法第245条の9参照)として「新幹線鉄道騒音に係る環境基準の類型を当てはめる地域の指定に係る法定受託事務の処理基準について」(平成13年1月5日付け環大企第2号環境庁大気保全局長通知)が発出されている。それによると、都市計画法に基づく用途地域が定められている地域については、次のとおりとされている。

都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく用途地域が定められている地域にあっては、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域を類型1に当てはめるものとし、その他を類型2に当てはめるものとすること。

この書きぶりによると、都市計画法に基づく用途地域が定められている地域については、指定に当たって知事に裁量はなく、機械的に行うことになる。
ところで、現在、都市計画法に基づく用途地域を定める権限は、市町村にある(都市計画法第15条第1項)。そうすると、新幹線鉄道騒音に係る環境基準の類型を当てはめる地域の指定は、少なくとも都市計画法に基づく用途地域については市町村とするのが普通の考え方である。したがって、上記の処理基準は適切でなく、あくまでもこの処理基準を所与としたいのであればから、一律に都道府県知事の権限としている法制度を改正すべきということになろう。