適切な文書とする視点

次の文書は、久繁哲之介氏が『地方行政』に連載している「働き方と、意識を改革せよ」で取り上げている某市が作成した文書である*1

タイトル:○○市消防団 婚活パーティーを開催します。
内容:○○市消防団員と一般女性との婚活パーティーを下記のとおり開催します。消防団員は普段はそれぞれの仕事を持ち、夜間や休日は消防団活動に励むため女性と知り合う機会が少ないという現状で、○○市の男性団員の平均年齢は34歳と若く、全団員の約半数(53%)が独身です。そのような状況から消防団婚活事業として婚活パーティーを開催し、出会いの場を提供することで私生活の面においても充実してもらい、消防団活動をより一層の強化につなげてもらう目的です。ただ女性と知り合うだけではなく、所帯を持ち、市民として、また消防団員として今後将来にわたり、地域に根付いた活躍ができるようにとの意味も込められています。
1)日時:2015年10月25日(日)午後3時から6時
2)場所:△△△△
3)内容:会話と食事を楽しみながら親交を深める。
4)会費:3千円
5)募集対象:20歳以上の独身女性:定員25名

久繁氏は、「情報発信の対象と目的を、顧客目線で、具体的に絞り、具体的に書くこと」が重要であるとし、上記文書の対象は、独身女性、目的は、婚活パーティーに参加してもらうことであり、独身女性(役所の外)に向けた婚活パーティー募集文書のはずが、役所内の稟議文書のようになってしまっているとする。具体的には、本文の部分は、次の問題があるとしている。

……(第一文の書き手は、)正しい対象(独身女性)と、正しい目的(婚活パーティーに参加してもらうこと)を意識して、タイトルと本文1文目までを書いた。しかし、本文2文目の「消防団員は普段は〜」から、いきなり身内(消防団)を激励する奇妙な内容……に変わる。
さらに本文最後の1文(3文目)で、身内に対して「ただ女性と知り合うだけではなく、……地域に根付いた活躍ができるようにとの意味も込められています」と、説教くさい内容……を結論にして、本文は終わる。

本文の2文目と3文目は、消防団員に向けた文書といっていいと思うが、タイトルからすると、このパーティー消防団が主催しているのだろうから、文書の作成者は、消防団の事務局という立場で書いているのに、市の職員の立場で書いてしまったというところだろう。結局のところ、本文2文目と3文目は、不要な文書ということになる。
さらに、久繁氏は、次のような弊害があるという。

(本文2文目は)身内の消防団を激励しているようで「平均34歳で独身率53%」という情報は「モテない男」と伝わる。
モテないと伝わる情報を公開されたら、男性の消防団はプライドが傷つく。女性は「モテない男ばかり参加しそう」と不安になって、参加を躊躇する。

この部分については、何かコメントするほどの知識はないのだが、そのほか、久繁氏は、次のような問題点を指摘している。

例えば「ドレスコード」と「(ドレスコードを決める)食事内容」は、パーティー開催を募集する文書に「絶対書くべきこと、常識中の常識」である。
(略)
例えば、自身の体験から考えれば、パーティー開催時間に午後3時〜6時は不適切と分かる。参加者、特に女性は次のように考えて不安を募らせるだろう。
「3時から6時は食事に適した時間帯でない。チャチな軽食しか出ないかも?軽食なのにオシャレして行ったら、場の雰囲気に合わず恥をかくかも?そもそも軽食で参加費3,000円は価格が高すぎる」
(○○市の)情報が致命的に酷い欠陥は、参加費3,000円という「価格に見合う価値」を何も書いていないこと。価格に見合う価値を伝えることは、民間なら「絶対に書くべきこと、常識中の常識」である。

上記のほか、個人的には、内容が「会話と食事を楽しみながら親交を深める」とあるが、イベント(ゲーム)的なものを何もせず、3時間ただ漫然と会話を楽しむだけなのかと思ってしまう。
しかし、これらはあくまでも一般論である。主たる対象を「○○市」の女性と考えているのであれば、上記の情報だけ十分なのかもしれないし、その場合には、「婚活パーティー」とするのではなく、「○○交流会」のようにする方が参加しやすいような感じもする。
いずれにしろ、重要なのはどれだけ参加したかであり、実際、どの程度の参加者があったのか気になるところである。

*1:地方行政第10736号