いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(1)

以前(以下の関連記事)、要綱等で設置するいわゆる私的諮問機関が附属機関として条例で設置すべきとして違法であると主張されている判例4件について取り上げたことがあるが、今回は、その後に出された次の3件を取り上げる。

今回も、判例を1件ずつ取り上げた後、最後に総括することとしたいが、判例では、違法性は認めるが、結論としては第一審原告の請求を認めないケースが多いので、その点について、総括の中で前回のシリーズで取り上げた判例についても合わせて触れることとしたい。
なお、今回も、特に注記をせずに「地方自治法」を単に「法」と、対象としている私的諮問機関を単に「本件委員会」というように表記することがある。
1 平成25年8月5日松江地裁判決(平成24年(行ウ)5号)
(1) 対象
出雲市長が設置した出雲市自治基本条例(仮称)市民懇話会(以下「懇話会」という。)及び「出雲市自治基本条例(仮称)」条例案検討会(以下「検討会」という。)
(2) 活動内容
ア 懇話会
設置の目的・諮問事項は、出雲市自治基本条例の制定に向け、条例に関する事項につき、調査、研究及び検討を行い、条例素案となる意見を取りまとめ、提言書の形で市長に提出する点にある。
委員構成は、定数が25名以内で、必要に応じて別途アドバイザーを置くことができると定められている。
委員の任期は、1年以内(ただし、再任可)と定められていて、設置期間については、特に定めはない。
イ 検討会
設置の目的・諮問事項は、出雲市自治基本条例の条例案の作成を行い、市長に報告する点にある。
委員構成は、識見を有する者、懇話会委員、市職員による10名以内で組織するものと定められている。
委員の任期は、事務が終了するまでとすると定められており、設置期間については、特に定めはない。
(3) 裁判所の判断(原文)
ア 附属機関条例主義の制度趣旨から見た「附属機関」の意義
……法138条の4第3項は、昭和27年に新設された規定であるが(同年法律第306号)、衆参両議院の地方行政委員会及び衆参両議院の本会議の各会議録……を参照しても、その立法者意思は明確ではない。そこで、その合理的制度趣旨について、検討するに、昭和27年の上記改正前は、附属機関の設置は、首長の組織編成権限に当然に含まれ、条例によることなく、任意に設置することができるとされていたのであり、その当時、多様な附属機関が設置されていたものと推測されるところ、上記制度趣旨は、これらを整理し、首長による附属機関の濫設置を防止すること、又は、議会の民主統制を及ぼす必要があること、以上をもって、首長の組織編成権に制約を加える点にあるものと解される。
このような法138条の4第3項の制度趣旨に照らすと、同項の「附属機関」とは、その文言の通常の意味から「審査、諮問又は調査のための機関」に該当するもので、上記制度趣旨に照らして、濫設置に当たる機関、又は、議会による民主統制の必要のある機関を意味するものと解するのが相当である。そうすると、「審査、諮問又は調査のための機関」であっても、濫設置に当たらず、かつ、議会による民主統制の必要のない機関であれば、首長の合理的な組織編成権限に委ねられているものと解すべきであり、このような機関は、法138条の4第3項の「附属機関」には、当たらず、附属機関条例主義の合理的適用外をなすものと解することができる。このように解することで、首長の組織編成権限と、機関の濫設置の防止・議会による民主統制の必要とを合理的に調整することが可能になるものと考える。
そして、このような解釈は、国家行政組織法8条が「第3条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。」として、審議会等(合議制の機関)について、必ずしも法律によることなく、政令で設置し得ると定めている(なお、法律のみならず、政令でも設置し得るという点については、昭和58年法律77号による同法の改正で新たに定められた。)ことも、上記解釈を体系的視点から補強するものであると解される。
イ 附属機関条例主義の合理的適用外に当たる機関か否かの判断基準
そこで、附属機関条例主義の合理的適用外に当たる機関か否かの判断基準が問題となる。
前記の制度趣旨に照らすと、その機関設置の時点において、当該機関が、〈1〉常設的機関ではないといえるか否かという形式的要素と、〈2〉民意を反映させる実質(いわゆる市民参加型審議会)を有するか否かという実質的要素とを総合して判定すべきものと考える。
そして、その具体的要素としては、a.当該機関の設置の目的・諮問事項、b.委員構成、c.委員の任期・設置期間を考慮すべきである(当該機関が、合議制の機関か否かは、附属機関条例主義の制度趣旨との関係では、その具体的要素として重要ではない。このことは、合議制の機関であったとしても、審議会等につき、政令で設置し得るという前記の国家行政組織法8条の規定からも窺うことができる。)。
ウ 本件懇話会等への当てはめ
……その機関設置の時点において、本件懇話会も、本件検討会も、常設的機関ではなく、臨時的・一時的な機関に過ぎないものであるといえ、かつ、市民から直接意見を聞き、その助言を求めるもので、民意を反映させる実質を有するものであると評価することができる。
……また、……出雲市議会において、本件懇話会等の設置、出雲市自治基本条例(仮称)の原案の説明及びその関連予算案の審議がされ、承認されていることが認められるから、その議会への説明状況及びその対応は、本件懇話会等への議会による民主統制を損なうものでないばかりか、本件懇話会等が民意を反映させる実質を有するものであるという前記の判断要素の充足を裏付けるものである。……以上で検討した諸事情を総合すると、本件懇話会及び本件検討会は、法138条の4第3項の「附属機関」には、該当しないものと解するのが相当であり、これらの機関の設置は、出雲市長の合理的な組織編成権限に委ねられているものと解するのが相当であるから、その設置根拠が要綱にあったからといって、違法視されるものではない。
(4) 判例に対する見解
附属機関条例主義の趣旨を立法当時の見解も参照し、その基準として、(1)臨時的・一時的な機関に過ぎないものであるといえること、(2)民意を反映させる実質を有するものであることのいずれも満たすものは、その合理的適用外になると判断し、本件懇話会等はその適用外であり、結論として適法としている判例としては稀有なものである。附属機関条例主義の趣旨を立法当時の見解を参照して判断している点は好感が持てるが、考え方としては一般的なものとは言えないだろう。
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