いわゆる私的諮問機関に関する判例について(その2)(4)

(「3 平成26年9月3日大阪地裁判決(平成24年(行ウ)262号)及び平成27年6月25日大阪高裁判決(平成26年(行コ)158号)」の続き)
 (2) 裁判所の判断(原文)
  ア 附属機関の意義等
   (ア) 法138条の4第3項は、普通地方公共団体が法律又は条例によって執行機関の附属機関として「調停、審査、諮問又は調査」のための機関を置くことができる旨を、法202条の3第1項は、附属機関とは条例等の定めるところによりその担任する事項について「調停、審査、審議又は調査等」を行う機関である旨をそれぞれ定めている……。そして、一般的に、「調停」とは、第三者が紛争当事者の間に立って、当事者の互譲によって紛争の妥当な解決を図ることを、「審査」とは、特定の事項について判定ないし結論を導き出すために、その内容を検討することを、「諮問」とは、特定の事項について意見や見解を求めることを、「審議」とは、特定の事項について意見を述べ議論することを(……法138条の4第3項と法202条の3第1項の関係からすると、後者にいう「審議」は、前者の「諮問」に対応する表現であり、諮問に応じて審議が行われることを想定したものと解される。)、「調査」とは、一定の範囲の事項についてその真実を調べることを、それぞれ意味するものである。上記各条項の規定文言、規定内容によると、附属機関とは、執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い、上記のような意味での、調停を行ったり、審査を行ったり、諮問を受けて審議を行ったり、調査を行ったりすることを職務とする機関であると解される。
   (イ) ところで、被告は、附属機関は合議制を採用する恒常的な組織でなければならない旨主張する。
確かに、普通地方公共団体の執行機関が市民からの多種多様なニーズや専門的知見を要する行政上の諸問題に対応する上では、執行機関において、広く市民に意見を求めたり、外部の有識者から意見を聴取したり、特定事項についての調査を依頼するために、何らかの組織を編成する必要が生ずることは否定できず、特に、そのような組織の編成が緊急性を要する場合には、条例の制定行為を経て、附属機関の設置を図っていては、必ずしも迅速な対応ができない場合があり得る。行政対応の遅延、硬直化を避け、迅速、柔軟な行政遂行を確保する上で、条例によることなく、外部からの意見聴取を行う組織を設置する余地を認めるという観点から、被告が主張するような、非合議制の組織や臨時的・一時的に設置される組織を後記のような附属機関条例主義の適用対象から除外しようとする考え方にも相応の合理性があるものということができる。後記のとおり、被告の上記主張と同様、附属機関について合議制の機関であるとする見解や、臨時的・一時的な組織の附属機関該当性を否定する見解等も存するところである。
しかしながら、法138条の4第3項は、昭和27年の地方自治法の一部改正によって新たに設けられたものであるところ、上記改正以前は、附属機関に相当する組織も、執行機関の行政執行に資するために設置されるものであるとの観点から、その設置権限が執行機関の持つ執行権限のうちに当然に含まれているものと解され、法令に特別の定めがない限りは、各執行機関が、組織編成権の行使として、規則その他の規定で任意に附属機関を設置することができ、条例の根拠を必要としないものとの理解の下で、多種多様な附属機関が条例等に基づくことなく設置されていた……。そのような状況の下で、新たに法138条の4第3項が設けられたという経緯に照らすと、同項は、普通地方公共団体が任意に附属機関を設ける場合には、必ず条例によらなければならないことを定めたものであり(以下「附属機関条例主義」という。)、その趣旨は、執行機関による組織の濫用的な設置を防止するとともに、その設置に議会による民主的統制を及ぼすことにあるものと解される。このような趣旨からすると、同項や法202条の3第1項に定められる前記……のような職務(調停、審査、諮問を受けての審議、調査)を行う組織は、むしろ、合議制であるか否かを問わず、また、恒常的に設置されるか否かを問わず、附属機関条例主義の適用対象とされているものと解することが自然であり、現に、法やその関係法令上、附属機関一般について組織の形態や存続期間等を定める規定は見当たらない。明文で附属機関とされている自治紛争処理委員が、事件ごとに任命され(法251条2項)、独立して職務に当たる機関であることも、上記解釈を裏付け得る(自治紛争処理委員は、一部の職務〔法251条の2第10項〕を合議により行うものとされているが、同項は同委員らの合議によるべき職務を限定的に列挙したものと解されるから、同委員は、基本的には委員各々の判断と責任において調停等の職務に当たる独任制の機関であるというべきである。)。そして、附属機関の設置について、議会を招集し、条例の制定、施行を待つ猶予がないほどに緊急性を求められる場合には、法179条1項の規定により普通地方公共団体の長が専決処分としてその設置を図る余地もある。
したがって、上記のような法138条の4第3項の制定の経緯、趣旨、法の規定ぶり等に照らせば、被告の主張するような考え方にも相応の合理性があるとしても、もはやそれは立法論にわたるものであって、同項の解釈論としては、合議制を採用していることや組織の恒常性は、附属機関の要件とされていないものといわざるを得ず、被告の上記主張は、採用することができない。
また、被告は、附属機関の設置を条例等によるべきこととした法の改正趣旨に鑑みて、濫用的設置のおそれがない組織や、民主的統制を及ぼす必要がない組織については、附属機関に当たらない旨主張する。
しかし、濫用的設置のおそれの有無や民主的統制の必要性の有無の判断基準は必ずしも明確ではなく、仮にそのような解釈を許せば、執行機関がその第一次的な判断権に基づいて附属機関に相当する機関を設置できることになり、結局、濫用的設置を許すことにもなりかねない。したがって、被告の主張は、直ちに採用することができない。
   (ウ) 以上に照らせば、執行機関の行政執行のため、又は行政執行に伴い、調停を行ったり、審査を行ったり、諮問を受けて審議を行ったり、調査を行ったりすることを職務とする機関であれば、いずれも附属機関に該当するものと解される。
  イ 本件各組織等について
上記で検討した附属機関の意義を踏まえ、本件各組織等について、附属機関該当性を検討すると、以下のとおり、いずれも附属機関に該当するものと認められる*1
   (ア) 高槻市事業公開評価会 (略)
   (イ) 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員
……特別調査員は、執行機関が、本件売上金不明事案の調査という行政執行のために、その調査を専門家の意見、助力を求めるべく設置していた機関であり、「調査」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別調査員は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別調査員は、市が行う調査について助言等を行うもので、自らが調査に当たるものではないから、「調査」を行うことを職務とする附属機関には当たらない旨主張する。しかし、特別調査員は、調査手法等の指導、助言に止まらず、自らが関係者のヒアリング等を行って本件売上金不明事案の原因究明に寄与しているのであり、そのような活動実態に照らせば、その活動は「調査」に当たるものというべきであり、被告の上記主張は採用することができない。
また、被告は、市との間で締結された私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、特別調査員は機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別調査員との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって特別調査員の報酬額や特別調査員に関する庶務を担当する部署が定められていること……等に照らせば、特別調査員が市の機関として設置されていることは否定し難く、被告の上記主張は、採用することができない。
   (ウ) 高槻市特別顧問
……特別顧問は、執行機関が政策課題の解決等の行政執行のために有識者に専門的な意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別顧問は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別顧問は市との間で締結された私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、市の機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別顧問との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって報酬額等が定められていること……等に照らせば、特別顧問が市の機関として設置されていることは明らかであり、被告の上記主張は、採用することができない。
   (エ) 高槻市交通部に関する特別改革検討員
……特別改革検討員は、執行機関が、本件交通部改革という行政執行のため、外部有識者に専門的事項に関する意見を求めるべく設置していた機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、特別改革検討員は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、特別改革検討員は市との間で締結した私法上の準委任契約に基づいて活動するものであるから、市の機関には当たらない旨主張するものとも解される。しかし、市が選任された特別改革検討員との間で個別に準委任契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないし、あらかじめ要綱によって特別改革検討員の報酬額や特別改革検討員に関する庶務を担当する部署が定められていること……等に照らせば、特別改革検討員が市の機関として設置されていることは明らかであり、被告の上記主張は、採用することができない。
   (オ) 高槻市行財政改革懇話会 (略)
   (カ) 高槻市指定管理者選定委員会
……選定委員会は、執行機関が、指定管理者制度の導入やその遂行等の行政執行のために学識経験者を含む委員らの意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、選定委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、選定委員会が、内部組織を規定する形式である訓令により組織されていることや、委員長及び副委員長には副市長が就くとされていることなどからして、内部組織にすぎず、附属機関には当たらない旨主張する。しかし、訓令……上、市の職員以外に学識経験者も委員となることが予定され、現に学識経験者が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の主張は、採用することができない。
   (キ) 高槻市地域情報化推進市民会議・(ク) 高槻市入札等監視委員会 (略)
……監視委員会は、執行機関が、入札及び契約手続の透明性確保等の行政執行のために専門家等の意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、監視委員会は附属機関に当たるものと認められる。
   (ケ) 高槻市老人ホーム入所判定委員会
……判定委員会は、執行機関が、老人ホームへの入所措置という行政執行のために、対象者について入所措置をとるべきかどうか等について専門家による審査を参考とすべく設置する機関であり、「審査」を行うことを職務とする機関であるということができるから、判定委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、市の職員である福祉事務所長が委員会を招集するなど、市の職員が主導的に運営しているから、判定委員会は市の内部組織である旨主張する。しかし、要綱上、市の職員以外の医師等も委員となることが予定され、現に医師等が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の上記主張は、採用することができない。
   (コ) 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
……ネットワーク運営委員会は、執行機関が、高齢者虐待防止施策の推進という行政執行のために外部団体から選出された委員等の意見を求めるべく設置する機関であり、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、ネットワーク運営委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、ネットワーク運営委員会は市の高齢者虐待防止ネットワークの運営管理を行うのみで、虐待防止策の検討を行うものではない旨主張する。しかし、ネットワーク運営委員会議事録……から、委員らによる施策の検討等が行われていることは明らかであるから、被告の上記主張は、採用することができない。
   (サ) 高槻市立障害者福祉センター運営協議会・(シ) 健康たかつき21推進会議・(ス) 高槻市予防接種運営委員会 (略)
   (セ) 高槻市予防接種健康被害調査委員会
……健康被害調査委員会は、執行機関が、予防接種による健康被害の処理等の行政執行のために専門家の調査やそれに基づく意見を得るべく設置する機関であり、「調査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、健康被害調査委員会は附属機関に当たるものと認められる。
   (ソ) 高槻市地球温暖化対策実行計画協議会 (略)
   (タ) 高槻市採石等公害防止対策協議会
……公害防止協議会は、執行機関が、採石事業による公害の防止という行政執行のために、関係者等を含めて採石事業場における公害防止に関する協議、調査等をすべく設置する機関であり、「調査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、公害防止協議会は附属機関に当たるものと認められる。
   (チ) 高槻市障害児就学指導委員会
……就学指導委員会は、執行機関が、支援学級への入級措置等の行政執行のために、対象児童等について入級措置等をとるべきかどうかの判断の参考となる審査をさせるべく設置する機関であり、「審査」を行うことや「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であるということができるから、就学指導委員会は附属機関に当たるものと認められる。
これに対し、被告は、委員の大半が内部職員であり、就学指導委員会は市の内部組織であって、附属機関には当たらない旨主張する。しかし、規則上、市の教職員以外にも、専門医、学識経験者等も委員となることが予定され、現にそれらの者が委員に含まれている以上、これを内部組織と評価することはできないから、被告の上記主張は、採用することができない。

*1:有識者等を委員等として意見を聴くこととしているものが多く、それについては、「諮問」を受けて「審議」を行うことを職務とする機関であり、附属機関に当たるという判断をしている。以下は、特記すべきもののみ取り上げる。