高次の目的を掲げる場合の目的規定

目的規定に、直接的な目的とその達成の手段とに加えて、高次の目的を掲げる場合は、長文になることが多く、苦労したものである。
大島稔彦『法令起案マニュアル』(P188)には、この場合の基本的パターンとして次のように示されている。

この法律は、…(目的達成の手段)…ことにより、…(直接的な目的)…を図り、もって…(高次の目的)…することを目的とする。

ところが、次のような目的規定の例がある。

この法律は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

これは、景観法の目的規定である。
前掲書(P190)には、目的達成の手段を規定する場合には、目的の前に規定すると記載されている。しかし、この規定は、「景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずる」が目的達成の手段で、その前に「我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため」と目的を書いたような文言があり、その手段の後にまた目的が書かれている。
国会の審議において、景観法の目的について次のような答弁がなされている。

この法律案は、……都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進し、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図るための我が国で初めての景観についての総合的な法律として定めようとするものです(第159回国会衆議院国土交通委員会(平成16年4月27日)石原国務大臣)。

これによると、「もって」以下が高次の目的であることが明らかであるから、「我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進する」ことと、「美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現」とはともに直接的な目的であると考えているように思われる。
そうすると、上記の基本的パターンに当てはめて書いてみると、

この法律は、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するとともに、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り、もって国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

というような感じになるのだろうか。
これはこれでそんなに悪くはないと思うけれど、直接的な目的の部分が冗長になるのと、いきなり「景観計画」と出てくるのがどうかなという感じがしないでもない。
また、直接的な目的とともに高次の目的も掲げる場合として、次に掲げる証券取引法の例がある。

この法律は、国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため、有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめることを目的とする。

この規定について、参議院法制局・法制執務コラム集(「立法技術と法解釈」)に次のような記載がある。

「…に資するため…を目的とする」とあるところから、「国民経済の適切な運営及び投資者の保護」が法の究極の目的で、「有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ、且つ、有価証券の流通を円滑ならしめること」が直接の目的であり、……

この規定は、高次の目的を書いてから直接的な目的を書いているが、同様の例として、前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』(P71)に港湾法の例が記載されているので、高次の目的をあわせて記載する場合には、むしろこのような書き方が一般的だったのかもしれない。
しかし、上記の基本パターンに慣れてしまうと、どうしても違和感を持ってしまう。
なお、証券取引法等の一部を改正する法律(平成18年法律第65号)により、証券取引法は題名が金融商品取引法に改められているが、その目的規定も次のように改められている。

この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。

非常にしっくりくる書き方である。
<追記>2008.1.13
景観法のような目的規定の書き方について、長野秀幸「法制執務の基礎と常識(10) 目的規定・趣旨規定」『自治体法務研究(No.10 2007秋)』(P102)に次のような記載がある。

目的規定は、……いくつかのパターンに分けることができる。……
(3)達成手段+直接目的+高次の目的のパターン
直接目的とその達成手段のほかに、より高次の目的を定めるパターンである。この場合、「この法律は、……することにより、……を図り、もって……することを目的とする。」という構文が通例である。「もって」以下の部分が高次の目的といわれる部分である。……
なお、直接目的を先に掲げ、「この法律は、……するため、……を講じ、もって……することを目的とする。」という構文を使うこともある。

なお、前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』で取り上げられていた港湾法の例は、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』では取り上げられていない。