法律事項を政令事項とした例

条例が規則等に委任することができる事項は、一般的に法律が政令等の命令に委任することができる事項と同様に、技術的・専門的な事項や機動的・弾力的に対処しなければならない事項などとされている(大島稔彦『法令起案マニュアル』(P41)参照)。
しかし、実際には、規則に委任することができる事項であっても条例事項としている例もある。その場合は、その条例が廃止されるまで、そのまま条例事項となってしまうことが通例だろう。
ただ、次のように法律事項とされていたものを政令事項とされた例がある。

中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律(平成22年法律第25号)
中小企業倒産防止共済法(昭和52年法律第84号)の一部を次のように改正する。
   (略)
第9条第2項中「次の各号に」を「次に」に改め、同項ただし書中「3,200万円」を「政令で定める額」に改め、同項第3号中「前6月以内」を「の前日の6月前の日から貸付けの請求があつた日までの間」に改め、同条第4項中「次の各号に」を「次に」に改め、同項を同条第5項とし、同条中第3項を第4項とし、第2項の次に次の1項を加える。
3 前項ただし書の政令で定める額は、取引先企業の倒産の影響を受けて倒産する等の事態をその貸付けを受けることにより中小企業者の大部分が避けることができると見込まれる資金の額等を勘案して定めるものとする。

改正前の中小企業倒産防止共済法第9条第2項は、次のとおりである。

2  前項の共済金の貸付額は、貸付けの請求があつた日における納付された掛金の合計額から次の各号に掲げる額の合計額を控除した額の10倍に相当する額と倒産に係る取引の相手方たる事業者に対する売掛金債権その他の経済産業省令で定める債権(以下「売掛金債権等」という。)のうち回収が困難となつたものの額(共済契約者とその取引の相手方たる事業者との取引関係が経済産業省令で定める要件に該当する場合にあつては、その額と共済契約者の取引関係の変化による影響を緩和するため緊急に必要な資金の額として経済産業省令で定めるところにより算定した額との合計額。以下同じ。)とのいずれか少ない額の範囲内において、共済契約者が請求した額とする。ただし、当該貸付額と請求の日において既に貸付けを受け、又は受けることとなつた共済金の額から既に償還した共済金の額を控除した額との合計額が3,200万円を超えてはならない。
(1)〜(4) (略)

上記の例では、法第9条第2項の貸付限度額について、それまで3,200万円と法律で規定していた事項を政令委任し、政令を定めるに当たっての考え方を同条第3項で規定している。この改正の考え方について、立法担当者は、次のように述べている。

昭和60年の改正により貸付限度額を2,100万円から3,200万円に引き上げて以来、25年間3,200万円に維持されてきた。しかしながら、近年、サブプライムローン問題やリーマンショックなどに端を発した急激な景気悪化により、倒産件数の増加とともに負債総額が高額な大型倒産が増加したことなどにより、取引先の倒産によって中小企業の回収困難となる売掛金債権等の額が高額化し、3,200万円の貸付限度額では十分でない共済契約者の割合が増加している。
こうした急激な景気悪化に対応して、迅速に引き上げる改正ができるように、貸付限度額を法定事項から政令事項に改正することとした。政令事項化によって、国会の議決を経ることなく、国会休会中であっても政府の決定によって迅速に定められることとなるが、今後ともこれまでと同様の考え方に基づいて貸付限度額が定められるよう配慮することが必要となる。
すなわち、これまで、貸付限度額の設定・引上げについては、本制度の収支状況への影響とともに大部分の中小企業者の取引先が倒産した際の資金ニーズに対応することができることを前提に設定されてきたところである。法律上、本制度の収支状況への影響について検討することについては法第23条において既に明記されているが、後者の大部分の中小企業者の資金ニーズに対応することについては法律上明記されていなかった。このため、今般の改正において新たに次の規定を設けて、政令事項になった後においても引き続きこれまでと同様の考え方に基づいて貸付限度額が定められるように、法律に明記することとした。
    (略)
なお、他の制度の政令事項化について検証してみたところ、本法は、本制度の加入条件や貸付条件などを定める「約款」のような役割を果たす法律であるが、同様の性格を有する他の法律において、掛金や貸付金の額等の具体的な額を法定事項としているものは少なく、事務的・技術的な要素として政令事項として定められている例が多い。例えば、本制度と同様の共済制度である中小企業退職金共済法(昭和34年制定)、小規模企業共済法(昭和40年制定)については、立法時には、具体的な額を法定事項として定めていたが、それぞれ平成14年、15年に具体的な共済金の支給額については政令事項に改めている。これらの政令事項に改めた理由は、本法の改正趣旨と同様に、以前よりも急激に変化する経済情勢に対応するためである。(中小企業庁事業環境部企画課 大星光弘「中小企業倒産防止共済の充実〜中小企業倒産防止共済法の一部を改正する法律」『時の法令(NO.1866)』(P35〜))

仮に条例事項を規則事項とすることを考えるのであれば、改正後の法第9条第3項のような規定を設けることは参考になるだろう。