地方事務所の所掌事務が設置条例の規定事項とされていない理由

自治体が事務を分掌するため行政機関を設置する場合には、条例を制定する必要があるが(地方自治法第155条第1項、第156条第1項)、当該条例で定める事項は、位置、名称及び所管区域であり(地方自治法第155条第2項、第156条第2項)、所掌事務は、当該事項とされていない。しかし、事務を分掌するから行政機関を設置するのだから、その設置条例には当然当該事務を規定すべきであるが、そうされていないのはなぜだろうか。この点について、今回は地方自治法第155条の規定による地方事務所について取り上げてみることにする。
地方事務所は、1942年(昭和17年)7月、戦争遂行のための戦時動員に係る行政を扱うために開庁したものであり(森邊成一「地方事務所の設置と再編―郡制廃止後の郡域行政問題」『広島法学23巻4号』(P55))、国主導で設置されたものである。そして、地方事務所の所掌事務は、各府県の訓令で「地方事務所処務規程」を定め、同じく訓令の「地方事務所長処務規程」又は「地方事務所長代決事項」によっていた(森邊・前掲論文(P56〜))。
戦後、地方事務所は、条例で設置できることとされたが、従前の地方事務所は、地方自治法第155条第1項の条例で設けたものとみなされ(旧地方自治法施行規程第13条)、あえて条例を制定する必要がなかった。こうした規定を置くのであれば、その所掌事務は、戦前とは同一ではあり得ないため、条例の規定事項とはできないだろう。しかし、現在は、同政令の規定が削除されているため、当然、その所掌事務は、その設置条例に規定することとすべきではないだろうか。