なぜ『「○○」の前に「△△」を加える』としないのか

最近、横書きの例規で『「○○」の前に「△△」を加える。』という改め文を見て、びっくりした*1。もちろん、「○○」は、その条の冒頭の語句ではあったのだが、これはなしだろうと思ったわけである。
私が例規審査をやっていたときも、このようになっている原案はあったのだが、特に理由も述べずに直してもらっていた。しかし、現に公布されているものに対して一言述べるわけだから、そういうもんじゃないだろうと言うだけでは、これがうちのルールだと言われてしまえばそれまでなので、なぜそれが適当でないのか考えてみることにした。
まず、横書きと縦書きとの場合で、字句や条などを加えるときの違いを確認しておきたい。

区分 横書き 縦書き
字句の追加 「○○」の次に「△△」を加える。 「○○」の下に「△△」を加える。
条の追加(原則) 第○条の次に次の△条を加える。 第○条の次に次の△条を加える。
条の追加(「前に」とする場合) 第○条の前に次の△条を加える。 第○条の前に次の△条を加える。

横書きの場合、字句であっても条であっても、それらの後ろに追加する場合は、「〜の次に〜を加える」とするのに対し、縦書きの場合は、字句の場合と条の場合とで書き方が異なる。縦書きは、追加する字句や条の位置関係で厳密に言葉を使い分けているのに対し、横書きは、多少ルーズになっていると言えるだろう(仮に、横書きで字句を追加する場合に、言葉を使い分けようとするなら、『「○○」の右に「△△」を加える。』とするのだろう)。
そうすると、縦書きの場合は、ある字句の前に字句の追加をするときに加え方式を使うのであれば、『「○○」の上に「△△」を加える。』とするのであろうが、「〜の上に〜」としている例はないと思うので、それはそれとして1つの理由になるであろう。
しかし、横書きの場合は、このような形式的な理由は使えないので、実質的な理由を考えてみたい。
思うに、『「○○」の前に「△△」を加える。』としないのは、改正後の姿が分かりにくくなることを考えているのではないだろうか。つまり、『「○○」の次に「△△」を加える。』とすると、改正後のその部分は「○○△△」となるわけだから、改め文を見ただけで改正後がどのようになるか分かりやすいが、『「○○」の前に「△△」を加える。』とすると、改正後は「△△○○」となるわけだから、改め文を見て改正後の姿を想像する場合は、頭の中で字句を入れ替える必要があるので、適当でないと考えたのではないだろうか。
これが正しいかどうかは分からないが、なぜこうしているのかということについて、何となくそれなりの理由をつけることができるのだから、よく考えているのだなあと思ってしまう。近時、新旧対照表方式で改める自治体もでてきているが、このようによく考えられている方式をやめてしまうのは、非常に惜しいと思うのだが。 

*1:ちなみに、私の自治体も横書きである。