自治体の組織(7)〜委任と専決

今回は、委任に関して感じていたことについてまず触れた後、委任と専決の例規への定め方について記載したい。
事務の委任は、長の補助機関であれば、地方自治法第153条第1項に規定がある。他の執行機関であれば、例えば教育委員会は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第26条に規定があるが、このような規定がない執行機関もある。ある機関が有する本来的な事務からすると特に委任を認める必要がないものとして、このような違いがあるのかもしれない。
出先機関等の組織の長に対して行うような一般的な事務の委任であれば、それでよいのかもしれない。しかし、職員が訴訟の指定代理人となるような場合を考えると、事務の委任ができない執行機関は困ったことになってしまう。実際にある自治体の方から聞いた話だが、事務の委任に関する規定がない執行機関がその職員を指定代理人にしたところ、裁判官にそのことを指摘され、指定代理人になることができなかったことがあるということである。
私自身、この話を聞くまでは、訴訟の指定代理人となり得る根拠ということは考えたことがなかったし、一般的にもあまり意識していないということであろうが*1、いずれにしろ、執行機関によって職員に対し事務の委任ができたり、できなかったりするのは不合理であろう*2*3
次に、委任と専決の例規への定め方についてである。
まず委任についてだが、上記の訴訟事務のようなものは当然個々に伺い定めをするのであろうから、ここで考えるのは、その執行機関の本来的な事務を委任するような場合である。そのような事務は、通常は、住民にとっても関係があり、どの機関が実施しているのか知り得る必要があることが多いだろうから、形式としては法規である規則で定めるべきであろう。
住民が知り得べきということに関してであるが、以前、許認可権限を委任する場合に、次のような規定にしたいという相談があった。

○○長への委任事項
○○法第△条に規定する××の許可(長が自ら許可すべきものと認めるものを除く。)

許認可権限を委任する場合、通常は、例えばその事案の規模が一定の規模以下のものとするかと思うが、上記の事例は、委任するかしないかについては、規模以外にも考慮したいものがあるのだが、一義的に決められないので、その都度判断することにしたいということであった。しかし、このような規定にしてしまうと、住民には、許認可を受けようとする行為等がどの機関に権限があるか分からないから、どこに申請したらよいのか分からないことになる。
もちろん、調査をする権限であるとか報告を求める権限のようなものであれば、その端緒となる行為は行政側が行うわけだから、このような書き方でも問題がないことになる。つまり、その事務の端緒が行政側にあるのか、住民側にあるのかによって、委任の仕方も考えなければいけないということである。
これに対し、専決については、内部事項であるため訓令等で定めることも可能ということになる。しかし、委任とともに規則で定めることにすると、いわゆる一覧機能による分かりやすさというものがあると思うので*4、その辺りを踏まえて、どのような形式の例規で定めるか決めればいいのではないかと思う。

*1:同種の執行機関であるが、別の自治体の方からは、自身が指定代理人になった際の話を聞いたことがある。つまり、その際には裁判官から指摘されなかったということであろう。裁判官は行政法をあまり知らないということはよく耳にするが、これなんかもその例なのだろう。

*2:九州大学の田中孝男准教授は、「地方分権からみた自治体訴訟法務に対する国家行政関与法制(法務大臣権限法)の評価」において、自治体がその所属職員を指定代理人に選任する根拠として、旧権限法体制下では、同法第5条第1項の適用や準用を唱える説があったが、一括法により同項は国に所属する行政庁のみを対象とする規定となったため、一括法施行後は、適切な説明ではなくなるとして、首長・教育委員会以外の執行機関を行政庁とした訴訟における指定代理について、早急な法令整備が望まれるとしている。

*3:執行機関によって取扱いが異なっていることの不合理な点としては、地方自治法第16条第5項の規則その他の規程を定める権限がない執行機関があることも挙げられると思うが、このことについては、また機会があれば取り上げたい。

*4:ただ、これも「自治体の組織(6)〜各執行機関(特に長)の組織・?内部組織」で係等を定めるときに注記したように、職員にとっての分かりやすさという意味が大きいと思う。