「○○で定める」「○○に定める」「○○の定める」(上)

下位の例規に委任する場合や同位の例規の規定事項を引用するような場合に「○○×定める……」と書くとき、この「×」の部分を「で」とするのか「に」とするのか迷ったことがあった。
しかし、次にような例と比較して考えることで、自分の中では一定の整理をしていた。

  • 鉛筆で書く
  • 鉛筆に書く

「鉛筆で書く」とすると、ペンではなくて、鉛筆を使って書くということ、つまり、手段とか方法を意味することになる。これに対し「鉛筆に書く」とすると、鉛筆自体に何か文字を書くということを意味することになる。
そうすると、下位の例規に委任する場合には、その例規で定めるという方法を意味することが通常であろうから、「○○で定める……」とすることになり、同位の例規の規定事項を引用するような場合には、「○○に定める……」とするのが原則ということになる。
なお、下位の例規に委任する場合で、地方自治法などでは「○○の定める……」とされている。この点について、田島信威『法令用語ハンドブック(三訂版)』(P180〜)に、次のように記載されている。

最近の法令では、これらの例にみられるように「政令で定めるところにより」と書かれるようになったが、戦後の一時期までに制定された法令では、「政令の定めるところにより」と「の」が使われることが多かった(例・地方自治法75条1項・85条2項、地方財政法23条1項・29条1項、児童福祉法35条・53条・55条など)。政令等が定めるのだということを強調する意味で、格助詞の「の」が使われたもののようである。 
しかし、前述の委任命令における「政令で定める……」とか、「前2条に定めるもののほか、国内源泉所得の範囲に関し必要な事項は、政令で定める」(所得税法163条)、「……における建築物の敷地、構造又は建築設備に関する制限で当該地域又は地区の指定の目的のために必要なものは、地方公共団体の条例で定める」(建築基準法50条)のような表現に影響されて、現在では「政令で定めるところにより」と書くようになった。

例えば、次のように、「の」を「で」に改めた例もある。

港則法及び海上交通安全法の一部を改正する法律(平成21年法律第69号) 
港則法の一部改正)
第1条 港則法(昭和23年法律第174号)の一部を次のように改正する。
   (略)
第18条第2項中「こえない」を「超えない」に、「国土交通省令の」を「国土交通省令で」に改め、「この条において」を削り、同条第3項中「国土交通省令の」を「国土交通省令で」に改める。
(参考)改正前の港則法(昭和23年法律第174号)
第18条  (略)
2 総トン数が五百トンをこえない範囲内において国土交通省令の定めるトン数以下である船舶であつて雑種船以外のもの(以下この条において「小型船」という。)は、国土交通省令の定める船舶交通が著しく混雑する特定港内においては、小型船及び雑種船以外の船舶の進路を避けなければならない。
3 小型船及び雑種船以外の船舶は、前項の特定港内を航行するときは、国土交通省令の定める様式の標識をマストに見やすいように掲げなければならない。